今大会のバティスタ采配は見事の一言。ベネズエラが早くもGS突破を決定。緑にかき消された赤のサポーターも勝利の余韻に浸る【コパ・アメリカ戦記】

コパ・アメリカ2024のグループB、メキシコ対ベネズエラの一戦は、“メキシコのホームゲーム”と化していた。

会場のSo-Fiスタジアムを埋めた7万人を超える観衆の大半は、緑のメキシコサポーター。その比率はざっと8対2で、赤のベネズエラサポーターはどうにも分が悪かった。

スタジアムがあるロサンゼルス周辺は、メキシコ国境からほど近い地域なのだから無理もないが、会場周辺は、メキシコのレプリカユニホームや国旗を売る出店であふれかえり、試合前からお祭り騒ぎとなっていた。

事実、試合はメキシコの圧倒的優勢でスタートした。前半にあったチャンスのうち、ひとつでも決めていれば、試合はまったく違う結果になっていた可能性が高い。

ところが、ベネズエラは逆転勝利を手にした初戦のエクアドル戦同様、ハーフタイムを境に試合の流れを一変させる。

巧妙な一手を仕掛けたのは、またしてもフェルナンド・バティスタ監督。ベネズエラ代表を率いるアルゼンチン人指揮官である。

前半を「ボールを握るのが難しかった」と振り返ったバティスタ監督は、後半開始からトップ下のジェフェルソン・サバリーノに代え、クリスティアン・カセレスをアンカーに投入。「(中盤の配置を)逆三角形に変えることでボールを握ることができ、後半は違う戦いができた」と語る。

出色の働きを見せたのは、そのカセレスである。ボール奪取だけでなく、自らボールを持ち出し、チームに推進力をもたらした。

これによって、前半のダブルボランチから一列前に出る格好になったヤンヘル・エレーラ、ホセ・マルティネスも躍動。前半とは打って変わって、前線やサイドバックと連係できるようになり、明らかに敵陣でプレーする機会を増やした。

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結果的にベネズエラが1-0で勝利したこの試合、唯一の得点となったのは、サロモン・ロンドンによるPKだったが、そのPKにしても、右サイドバックのホン・アランブルが中盤とローテーションしながらペナルティエリア内に進入し、ファールを受けてのものだった。

それにしても、今大会のバティスタ采配は、見事の一言に尽きる。その結果が、過去に一度も勝ったことのない相手から手にした、歴史的初勝利というわけだ。

もちろん、試合途中に指揮官が打つ手が目立ってしまうということは、ベネズエラは1試合を通して完璧な試合ができているわけではない、ということでもある。

前半のみならず、1点リードの試合終盤もメキシコの猛攻にさらされ、87分には立て続けにボックス内でのシュートを浴びるなかで、ハンドによるPKを与えてもいる。

幸いにして34歳のベテランGK、ラファエル・ロモの好セーブによって、オルベリン・ピネダのPKを含むシュートのすべてがことごとく防がれたが、裏を返せば、それだけ数多くのピンチを招いたということでもある。

見方によっては、素直には喜べない勝利、ということにもなりかねない。それでもバティスタ監督は、成長を続けるチームを前向きにとらえる。

「常に改善すべき点があるのは良いことだ。もっと落ち着いてやれる方がいいが、改善する必要のないチームなど世界中にないんだ」

これでグループステージ2連勝となったベネズエラは、早くも決勝トーナメント進出が決定。試合後は、緑にかき消されて目立たなかった赤のサポーターたちだけが、いつまでもスタンドで勝利の余韻に浸っていた。

「素晴らしい後半だった。後半は私たちが求めているものだった」

アルルゼンチン人指揮官は、誇らしげにそう語った。

取材・文●浅田真樹(スポーツライター)

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