太古の宇宙の海洋世界、小惑星ベンヌの標本が解き明かした驚きの可能性

Lauretta & Connolly et al. (2024)/Meteoritics & Planetary Science

(CNN) 米航空宇宙局(NASA)の探査機が小惑星「ベンヌ」で採集した試料の分析で、ベンヌに水が豊富だった予想外の過去がある可能性や、太古の海洋世界から分離した可能性があることが分かった。

探査機「オシリス・レックス」は2020年にベンヌで121.6グラムの標本を採集し、23年9月に地球に帰還した。以来、研究者はベンヌの構造や地球に生命の要素をもたらした可能性を探るため、岩石や粉塵(ふんじん)の分析を続けている。研究者が注目するのは、太陽系が形成される過程で残った天体が小惑星だったという理由もある。

昨年10月には標本分析の最初の結果が発表され、ベンヌが大量の炭素を含有していることが分かった。

今回、ベンヌの標本の新たな分析で、いずれも太陽系の形成にかかわる炭素、窒素、有機化合物が豊富に含まれていることが判明。これは生命の誕生にとっても不可欠な成分で、地球のような惑星の進化の解明に役立つ可能性がある。

この研究結果は26日の隕石(いんせき)・惑星科学誌に発表された。

「オシリス・レックスは、かつて水が豊富だった世界の窒素と炭素を豊富に含む、原始の小惑星の大型標本をもたらしてくれた。まさにまさに我々の期待通りだ」。NASAの研究者ジェイソン・ドワーキン氏はそうコメントしている。

生命の要素

最大の驚きは、探査機がベンヌの軌道上にある時には検出されていなかったリン酸マグネシウム・ナトリウムが、標本から見つかったことだった。

リン酸マグネシウム・ナトリウムは水に溶ける化合物で、生命が活動するために欠かせない成分でもある。

研究者によると、ベンヌは太陽系にかつて存在していた小さく原始的な海洋世界から分離してできた可能性がある。

標本は大部分が蛇紋石を含む粘土鉱物で構成されており、地球の中央海嶺にある岩石と酷似していた。中央海嶺では地殻の下にあるマントル層の成分が、水と接している。

同様のリン酸塩は、2020年12月に帰還した日本の探査機「はやぶさ2」が、小惑星「リュウグウ」で採集した標本からも見つかっていた。しかしベンヌの標本の方が純度が高く粒子も大きかった。

アリゾナ大学トゥーソン校教授のダンテ・ローレッタ氏は、ベンヌ標本のリン酸塩の存在について、「水が豊富だったベンヌの過去を示唆している」と指摘。「ベンヌはかつて、水が豊富な世界の一部だった可能性がある。だがこの仮説はさらなる調査を必要とする」とした。

宇宙のタイムカプセル

ベンヌで採集された標本は、45億年以上前にさかのぼる初期の太陽系を閉じ込めたタイムカプセルの役割を果たす。

「つまりこのような小惑星は、水と生命の構成要素を地球にもたらす重要な役割を担っていた可能性がある」とカーティン大学のニック・ティムズ氏は言う。

もし、そうした小さな天体が、水や鉱物などの成分を運んで数十億年前の形成期の地球に衝突したとすると、地球上で生命誕生の土台作りに貢献した可能性もある。

「この物質は、太陽系形成の入り組んだプロセスや、地球の生命誕生に貢献したかもしれない前生物的な化学物質の謎を解く鍵を握っているかもしれない」とローレッタ氏は話している。

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