「同じ境遇の人の希望になりたい」 難病を公表した女子プロレスラー・向後桃がどうしても達成したい目標

これからの展望を語った向後桃【写真:橋場了吾】

どうしても獲りたいハイスピードのベルト

バセドウ病に膠原病。スターダム所属のプロレスラー・向後桃が病気を公表し、同じ病で落ち込んでいる人たちの希望になれれば、と考えている。治療の甲斐もあってバセドウ病は寛解し、今は膠原病の治療をしながらリングに上がり続けている。そのリングで、今の彼女にはどうしても達成したい大きな目標があった。(取材・文=橋場了吾)

向後が、2021年末にアクトレスガールズがプロレス団体としての活動を休止したときに、スターダム参戦を決めた理由がある。

「スターダムを知ってからは、(岩谷)麻優さんの大ファンでした。MK☆Sisters(岩谷とスターライト・キッドのタッグ)に憧れて619を練習していたくらいで。(岩谷の自伝である)『引きこもりでポンコツだった私が女子プロレスのアイコンになるまで』もバイブルのように何度も読んで、何度も涙して……自分と同じく細いのに、麻優さんは強くてカッコよくて。だからこそ、スターダムに入ったときに、すぐに(岩谷がリーダーを務める)STARS入りを志願しました」

その熱意は認められ、今はSTARSの中心選手のひとりとなった向後。昨年のアメリカ遠征では、その大食いぶりから「あなたの胃はブラックホールか」とアメリカ人選手も目を白黒させていたとか。しかし、スターダム参戦当初はまだバセドウ病は寛解しておらず、膠原病の症状も出ていた。

「SNSを見ると、同じ病気で苦しんでいて、自分の人生を悲観している人がたくさんいたんです。でも私は、病気にも打ち勝って同じ境遇の人の希望になりたいなと思ったんです。プロレスラーとしては公表しない方がよかったのかもしれないのですが、公表することで少しでも気持ちが救われる人が増えればいいなと思って、病気を患っていたことを公表しました」

バセドウ病は寛解した向後だが、今患っている膠原病は厚生労働省が特定疾患にしている「難病」である。人の細胞と細胞を結び付けている結合組織である膠原線維や血管に異変が生じる病気で、身体の様々な部位に腫れや痛みが生じる病気だ。

「(バセドウ病も膠原病も)どちらも免疫の病気なのですが、膠原病は免疫が強い人の方がなる病気です。免疫の働きにより作られる抗体は、本来ウイルスなど外敵を攻撃するために作られます。ただ時々異常をきたし、自分の体を攻撃する抗体が発生することがあるそうです。抗体が強い人はウイルスを攻撃する抗体も強いので、その攻撃が自分に向いた時には、深刻なダメージを追ってしまう…つまり抗体が強い人は膠原病発生のリスクが高いということです。私は小さい頃から風邪も引かないですし、外国の屋台でも腹痛を起こしたこともないので、抗体が強いみたいで。今はお薬を飲みながら、体調管理をしながら付き合っていくことになります。でも私はデビューしてからの5年間、まだベルトを巻いたことがないんです。だからプロレスが好きになったきっかけがハイフライヤーで、かつメキシコで練習してきた経験もあるので、ハイスピード選手権のベルトを獲るという目標があります。その目標に向けて、頑張っていきたいですし、その先にはSTRONG女子王座も狙っていきたいです」

得意技の619が決まれば試合の流れが大きく変わる【写真:スターダム提供】

リング上で『生きている』レスラーを目指していきたい

向後はプロレスラーになる以前から芸能活動を行っていたが、前述の岩谷の自伝を映画化した『家出レスラー』(5.17より6月中旬まで全国公開)で主人公の岩谷マユを見守る大事な役柄を演じている。

「撮影は本当に楽しかったですね。自分もいつかこうなりたい、と思っていた本でしたし、ずっとこの本に支えられてきましたから。撮影のない日は試合、試合のない日は撮影、みたいな日々でしたけど、本当に楽しかったです」

向後は2021年10月にアイスリボンのCMLLツアーでメキシコに参戦。その縁もあり、6.28に新木場1stRINGで行われる『LUCHA FIESTA2 -ルチャフェス2-』では、CMLLのレジェンド中のレジェンド、アマポーラと対戦することも決定した。

「メキシコは欠場選手が出たので急遽行くことになったんですが、初代ミスティコの道場で練習もしましたし、もともとハイフライヤーが好きだったこともあって、たくさんの刺激を受けてきました。アマポーラとはメキシコで何度も対戦してきたので、2年半ぶりに戦って成長したところを見せつけたいなと思っています」

憧れの存在・岩谷麻優の横に正パートナーとして立ちたいという向後。その向後に目指していきたいレスラー像を聞いてみた。

「麻優さんみたいなレスラーになりたいというのはずっとあるんですが……リングの上で、『めっちゃ生き生きしているな』と感じるレスラーっているじゃないですか。そういうリング上で『生きている』レスラーになっていきたいですね」橋場了吾

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