スーパーの『レジに椅子』作業効率や負担軽減のため導入増加 「印象悪化」店は気にするが、多くの客は「座って接客“あり”」 医師も“立ちっぱなし”に警鐘

店員がスピーディーに商品をスキャンしカゴに入れていく。日本のスーパーでは見慣れた光景だ。 しかし、客の波が途切れた時に、店員がイスに座る… レジ仕事にイスを導入するところが増えている。

■立ちっぱなしで働くと「腰やひざがしんどい」 中には注射打ち薬を飲んで仕事にのぞむ人も

大阪市福島区にあるスーパー「ミスギヤ」は、立ったままレジを打つ、一般的なスタイルの店だ。 長年働いている店員に話を聞いてみると…

MISUGIYA店員(30代):もうずっと立ちっぱなしなので、足の裏に体重がかかってくると、やっぱり腰だったりとか、ひざだったりとか、やっぱり負担がかかってくるので、ちょっとしんどいかなというふうには感じますね。

定点カメラで見てみると…、足を左右に小刻みに動かしてはいるものの、限られたスペースの中で大きく動くことはないようだ。客の列が途絶えた時には、足のストレッチをするようなしぐさも…。

MISUGIYA店員(30代):やっぱり膝から下が重だるいっていうか、動かしてないので固まってる感じがしますね足首とかも。(Q.左右に動いていても?)屈伸運動じゃないので、ただ左右に動いているだけなので。やっぱり全然、足の負担は違いますね。

同僚の中には腰痛がひどく、月に1回注射を打ち、痛みがひどいときは、薬を飲んで仕事にのぞむ人がいるそうだ。

■医師も警鐘を鳴らすが導入進まず

この「立ちっぱなし」には医師も警鐘を鳴らす。

Nクリニック理事長 中里伸也医師:立ちっぱなしでいると、上半身の重さがそのまま腰や骨盤にかかってしまいますので、腰の痛みが出たり股関節・ひざの痛みが出たりする。ずっと立ち続けるということは、ある筋肉ばかり使うので、その使われた筋肉は疲労に陥りやすくなる。

そもそも、厚生労働省の労働安全衛生規則では、「就業中しばしば座ることのできる機会のあるときは、当該労働者が利用することのできる、いすを備えなければならない」とされており、イスの設置が義務づけられている。 しかし、「業界の通例」という壁が阻み、まだ導入が進んでいない。

■接客での立ちっぱなし問題を解消 きっかけは「明確な理由がないこと」

このような状況を、改善しようという動きが、いま活発になっている。

「レジ仕事は立ちっぱなしを強いられている」として、5月、労働組合の「#座ってちゃダメですかプロジェクト」のメンバーが、厚生労働省に改善を求める要望書を提出した。 厚労省は「今後、関係団体などに現状を確認するヒアリングを検討したい」としている。

さらには…

記者リポート:神戸市にある、ドン・キホーテに来ています。こちらの店のレジ方は…座っています。

この店では、ことし4月から全てのレジにイスが設置された。 立ったままレジを打ち、客の波が引いたら座る、という形で、使われている。 イスは座面が高く軽く座れて、立ち上がりやすい作りになっている。

これまでレジの担当者は、1日であわせて最長8時間立ちっぱなしで、足腰を痛める人が続出していたが…。

店員(20代):足がずっとだるかったり、疲れやすくて、腰も一時期すごく痛めていた。(Q.イスの導入で体の痛み、改善された?)そうですね。だいぶ違うと思う。本当に、終わった直後の疲れが違う。長時間シフトが入っている時は、前よりは気楽に仕事に取り組める。

このイスを開発し、接客での立ちっぱなし問題を解消しようと取り組んでいるのが、アルバイトの求人情報サイトを運営する「マイナビバイト」だ。 取り組むきっかけは何だったのか?

マイナビバイト「座ってイイッスPROJECT」南波直樹さん:海外に行った際、海外のスーパーだと座ってるのが当たり前。日本と違う部分に気づいたところが一番のきっかけ。企業などに意見を聞くと、(立ちっぱなしの)明確な理由がないことに気付いた。『なんとなく立っていたほうが、見栄えがいい』とか、『礼儀正しそうに見える』とか、抽象的な意見が多かったので、それであれば立つことが絶対ではないと再確認できた。

プロジェクトが開発したイスは、6月の時点で、およそ50社が購入していて、ドン・キホーテの店舗の中には、海外さながら、座ったままレジをする形で取り入れているところもあるということだ。

「失礼に見えないか」など客の反応を心配していたそうだが…

買い物客:イスあるんや~とは思ったけど、だからって不快感はない。自分の立場やったら楽やろうなと思うし。

買い物客:いいと思います。やっぱしんどいもんね。私も立ち仕事やったから、着圧ソックスとか履いてた。休憩のときは足あげたい~みたいなね」 今のところ、否定的な意見は来ていないそうです。

店員を雇う側にとっても、良い効果が出ているということだ。

MEGAドン・キホーテ神戸本店 来栖正大店長代理:腰に負荷がかかるアルバイトの方が大勢いて、実際に体調崩したり、辞める人がいた。イスを導入する前より、そういった理由で辞めるスタッフは少なくなった。(求人の)プラスの要素にはなると思う。打ち出していけたらなと思います。

■導入を試みるも「不評」の職場も

一方、このスーパーは以前、イスの導入を試みたそうだが…

フレッシュマーケットアオイ 内田寿仁社長:実際に座っている姿はあまり見なかった。

大阪市阿倍野区にあるフレッシュマーケットアオイでは、レジ仕事の合間に少しでも座ってもらおうと、イスを試験導入した。 しかし、店員からは「不評」だったそうだ。

店員:イスがあっても休憩するわけではないし、お客さんとの目線も違ってしまうので、ない方がいいのかなと思う。今までの流れに慣れてしまっているので、かえってそこに違う流れを入れると、違う筋肉を使う。そうなるとちょっとしんどい

一度は断念しましたが、内田社長は「座ることなどで負担がない状態で、働くことができる職場の環境を整えたい」と考えている。

フレッシュマーケットアオイ 内田寿仁社長:(現在は)立ってレジを打つのが前提の仕組み。社会的な考え方も、機材そのものの考え方も、座ったままが前提の社会になれば、抵抗なくみんながやってくれるようになると思う。

レジや接客を座ってすることが「当たり前」になる時代は、いつになるのか。

■座っての接客をしない理由「なんとなく、特に理由はない」

「newsランナー」吉原功兼キャスターが「座ってイイッスPROJECT」が開発をしたイスに座ってみたところ、「高さがあり、深く腰かけているわけではないので、すぐ立ち上がることができ、接客の体制をとることができると」感じたそうだ。

こういった接客どのくらい広がっているのか。 マイナビの調査では、パート・アルバイトが座って接客することに関して、「原則許可していない」、「ルールはないが座ってない」と回答した会社は、44.3%だった。

その理由は、 1位お客さんからの印象悪化を防ぐため、 2位なんとなく、特に理由はないということだった。

一方で、サービスを受けるお客の立場ではどうなのか?事前に番組のLINEでアンケートを取った。 座って接客が「あり」は84.3%、「なし」は15.7%。

「あり」の理由は「スムーズに買えたらいい」、「なし」の理由は「客に対し失礼」ということだった。 お店としては印象悪化を気にしているが、客側はそれほど気にしていない。

関西テレビ 神崎博報道デスク:経営者側としてはそう思うけれども、実は利用者側の番組のLINEアンケートの結果ではそこまで思ってということなので、もしかしたらギャップがあるかもしれませんし、一方で働く人の側から見ると、例えばですけど今、接客業の募集をかけてもなかなか人が集まないと聞きますので、労働環境を少しでも良くしていけば、立ち仕事ではなく座れるということになれば、働いてみようかという人が出てくるかもしれません。労働環境も考えると、座るというのは、アリなんちゃうかなとは思います。

京都大学大学院 藤井聡教授:『なし』と答えた人が15.7%おられますが、ヨーロッパ行ったりして、座ってレジ打ってくれる体験とか、僕らよくあるわけですよね。それがあるから僕らは全然、違和感ないですよね。だから、一度見られて見ると15.7%の方も実はそのほとんどの方が、『あり』だと言われるのではと思います。僕の知り合いでも、立ち仕事を何十年もやって、ものすごい腰痛で苦しんでいる方もおられますから、座るようにした方がいいと思います。

働きたいという高齢者の方や妊婦の方も働きやすい環境を提供できるのではないだろうか。

(関西テレビ「newsランナー」2024年6月28日放送)

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