能登半島地震では「奥能登」と呼ばれる石川県珠洲、輪島、能登、穴水4市町を中心に被害が拡大した。石川県教委は奥能登の外に避難した高校生が転校せず、地元校の授業をオンラインで受けられる環境を構築。小中学校では複数校の児童生徒を安全な校舎に集約して授業を継続するなど、被災した子どもたちの学びの機会を確保するための取り組みが続く。
倒壊した家屋が残る市街地で輪島中に通学する子どもたち。輪島中の教室では小学校6校が間借りして児童が学んでいる=25日午前8時、石川県輪島市
オンライン授業に悩む高校生
金沢市の北に立地する内灘町の内灘高。「もう一度説明していただけませんか」。地震で自宅が被災し、奥能登外への避難を余儀なくされた生徒向けのオンライン授業の一場面だ。質問を受けた教員は100キロ以上離れた場所にある別の高校から回答した。
内灘高には現在、輪島高(輪島市)と飯田高(珠洲市)の生徒約20人が通う。輪島高と飯田高の生徒はそれぞれの校舎で行われている授業に内灘高からオンラインで同時参加している。
津波で沿岸部が壊滅的な被害を受けた東日本大震災では被災地の教育環境の回復に時間がかかった。これに対し、能登半島地震では新型コロナウイルス禍でオンライン授業が普及した経緯もあり、地震で失われたノートパソコンなどの通信機器を石川県教委が貸与して早期に環境を整えた。
ただ、オンライン授業を受ける輪島高3年の秋田憲秀(かずほ)さん(17)は「実は頭に入りにくいんです」。30人ほどいるクラスメートの大半は本来の教室で授業を受けており、時折聞こえる笑い声に「早くあっち(輪島高)で授業を受けたい」と本音がこぼれた。
飯田高3年の出口桃宇(ももね)さん(17)は、同校でただ一人オンライン授業を受けている。画面越しに手を振ってくれたり、声をかけてくれたりする友人の姿に古里への思いは募る。平日に開かれた球技大会は、移動の制約から欠席せざるを得なかった。全ての行事が高校最後。「早く行事に参加したいんです」と打ち明けた。
バス運転手確保困難
奧能登のうち輪島市では複数の小中学校の児童生徒が安全な校舎に集まり、共に学んでいる。市教委はスクールバスのやりくりに苦心する。これまでタクシー会社に委託していたが、避難で運転手の確保が困難になっているためだという。
一方、市教委は学びやの集約がもたらした利点も挙げる。発災前から少子高齢化が深刻な奥能登では複式学級の小学校もあり、複数校の児童生徒が集まることで新たな人間関係を築くきっかけをつくった。市教委の担当者は「小規模校ではできなかったことができるようになる」と期待する。
奥能登では児童生徒を支える教員の負担軽減に向けた動きも進む。アパートなど住宅が不足する中、石川県教委は教員用の仮設宿舎を穴水町に建設する方針を固めた。現在は2時間ほどかけて通勤している教員がおり、宿舎の整備で通勤の負担を減らしたい考えだ。
(いわき支社・折笠善昭)