埼玉にチャンス到来?新しいお札発行まであと少し キャッシュレス化で流通減る見込みも券売機やレジ対応急ぐ 新1万円札の渋沢栄一は埼玉出身、地域経済の盛り上がり期待も

コインパーキングで新紙幣対応精算機の点検をする管理会社の担当者=27日、さいたま市浦和区

 20年ぶりとなる新紙幣発行が来週7月3日に迫った。世界初の3Dホログラムなど最新の偽造対策が施され、本年度末までに3券種(1万円、5千円、千円)合わせて74億8千万枚が国立印刷局(東京都北区)で印刷される。キャッシュレス化の浸透で製造開始3年間の総発行枚数は現紙幣よりも3割ほど減る見込みだが、紙幣の取り扱いが多い商店などでは券売機やレジなどの改修作業に追われている。

■駆け込み集中で遅れ

 券売機や精算機の販売大手エルコム(東京都大田区)によると、一般的に機械の買い替えは1台70~200万円、ソフトウエアの更新は同15~40万円程度かかるという。

 同社には昨年の2倍の注文が入っているが、「ここ1カ月ぐらいの駆け込み需要でメーカーの生産が追い付いていない」と川浪武盛専務。現在、依頼の6割程度しか対応できておらず、「今後の注文は納期のめどが立っていない」と複雑な心境を明かす。

 業界団体の日本自動販売システム機械工業会(東京都新宿区)の調査では、6月末時点で全国の金融機関やスーパーマーケット・コンビニエンスストアはほぼ完了。鉄道は8~9割、バスは6~7割程度。全国に約10万カ所ある時間貸駐車場(コインパーキング)は5割、約220万台の飲料自販機は2~3割にとどまる見込みだ。

■県内対応は順調?

 県内の主要金融機関6社(埼玉りそな銀行、武蔵野銀行、埼玉縣信用金庫、川口信用金庫、青木信用金庫、飯能信用金庫)は5月末時点で全ての現金自動預払機(ATM)と両替機の対応を完了。コンビニ大手のファミリーマートは「2月中にはレジの改修は済んでいる」(広報担当)と準備は万全だ。外食チェーンのアールディーシー(熊谷市)も3月末時点で釣り札機(レジ)のユニット交換などを完了したという。

 JR東日本は昨年秋から順次改修作業を始め、今月中には管内約4千台の券売機全ての作業が完了する。都内と県南部を中心に路線バスを運行する国際興業(東京都中央区)は今月13日までに空港連絡バスや高速バスを含む全車両で低額紙幣(新千円札)の対応を完了した。

 全国のコインパーキングは半分程度が手付かずと言われるが、都内と県内約400カ所の駐車場を管理する大栄不動産(同)は精算機の紙幣識別ユニット(ビルバリ)の更新作業を9割以上完了。残りは8月中に終わらせる予定だ。

■一部から嘆きの声も

 「原材料高に加え、今回の出費はダブルパンチ」と嘆くのは、ラーメン店「チャーシュー力」を3店舗経営する溝呂木健一さん。昨年夏の鶴ケ島店(鶴ケ島市)のオープン時に新紙幣対応の券売機を約200万円かけて導入。アルバイトなどの人件費もかさみ、年明けから1割程度の値上げに踏み切った。

 パチンコ業界からも悲鳴が上がる。各遊技台の脇にある台間サンド(玉貸機)のビルバリ交換は1台当たり約3万円。県遊技業協同組合の趙顕洙(ちょうけんしゅ)理事長は「店舗で使えるお札の種類が少なければ客足は遠のく。パチンコ・パチスロ業界はコロナ禍前の9割ほどしか稼働が戻っておらず、資金力に乏しい個人店は廃業に追い込まれるかもしれない」と危機感を募らせる。自身の店舗でも計300台のビルバリ交換で「1本(1億円)かかった」という。

■埼玉はPRの好機

 第一生命経済研究所主席エコノミストの永浜利広氏は今回の新紙幣発行の目的を「偽造防止に加え、主要各国から後れを取るキャッシュレス化の促進」と分析。さらに「自宅に眠るタンス預金のあぶり出しがあるのでは」と推察する。日銀の資金循環統計によると、2022年12月末時点の家計部門が保有する現金は前年比2.4%増の109兆円と過去最高。日本のキャッシュレス決済比率は20年時点で約32.5%にとどまり、最も普及している韓国の93.6%、中国の83.0%と比べて圧倒的に低い(経産省調べ)。

 とはいえ、金融機関の統廃合やキャッシュレス化の進展で20年前の発行時と比べて紙幣の流通量が減少しており、永浜氏は「ATMや券売機などの更新特需は限定的」とした。県内は1万円札の肖像渋沢栄一の出身地深谷市などゆかりの地が多いため、「埼玉の名を全国にPRする絶好の機会。地域経済が少しでも盛り上がってくれたら」とエールを送った。

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