「墜落するかも」長崎発全日空機 気圧の異常低下 急降下、酸素マスク… 恐怖でPTSD

機内の上部からマスクが下り、酸素を供給する管が伸びている(男性提供)

 6月22日の長崎発中部行き全日空372便。飛行中に機内の気圧が異常に低下し、乗客乗員11人が体調不良を訴えた。国土交通省は26日、事故につながりかねない重大インシデントに認定。同機に乗り合わせた長崎市の50代男性医師が取材に応じ、機内の状況や恐怖、体調の異変などを語った。
 国交省によると、同機は22日午前10時半ごろ、高度約7600メートルを飛行中、与圧系統の不具合で機内の気圧が低下したため緊急事態を宣言。約3千メートルまで降下した。その後、気圧が正常の範囲内になり、宣言を解除。中部空港に着陸した。
 男性は名古屋市である会議出席のため同機に搭乗した。ほぼ定刻の午前9時半すぎに長崎を出発。当直明けで「離陸してすぐに眠っていた」が、同10時半ごろ寒さで「ヒヤッとして目覚めた」。直後に酸素マスクが下り、「急降下しています。マスクを着けてください」と機内アナウンスがあった。焦っていたためか着用に手間取ったが、強く引っ張ると留め金が外れた。
 「急降下」「酸素マスクの着用」。不安材料が重なり、「墜落するかも」と考えた。頭に浮かんだのは仕事ではなく、家族のこと。スマートフォンに「お父さんはだめみたいだから仲良く健康に過ごしてください」とメッセージを残した。
 「恐怖のせいか、国民性なのかは分からないが飛行中は皆さん静かで騒ぎは起きなかった」が、着陸後、乗客たちは安堵(あんど)の表情を浮かべながら「怖かった」「どうなるかと思った」と口々に話していた。
 空港で地上職員が車いすなどを用意して待機する姿に、緊急時に備えていたことを知った。急激な気圧の変化で耳が痛かったが、会議出席のため急いで移動した。
 ホームページにトラブルの状況が掲載されたり、健康状態を確認するメールが届いたりすると思っていたが、当日も翌23日も全日空から連絡はなかった。
 長崎で日常生活に戻ると体調に異変が起きた。フラッシュバックで未明に目覚めた。人生で初めて心療内科を受診。心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断された。事件や事故、災害など生命の危険や強い恐怖を感じるような体験をきっかけに引き起こされる精神的な障害だ。
 「メンタルは強い方だと思っていたので診断結果に驚いた。ほかの乗客や客室乗務員も同じように怖かったと思う。必要なケアをしてほしい」と気遣う。
 全日空からはトラブルの説明や体調を気遣う内容のメールが後日届いた。当初は不信感もあったが、今は「現場のパイロットや客室乗務員はトラブルの中、最善を尽くしてくれた」と感じている。

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