“人をほめない”青木真也が那須川天心を「やっぱりすげぇ」と称賛するワケ「ちょっと悔しい」【青木が斬る】

連載「青木が斬る」vol.2~後編~【写真:山口比佐夫】

連載「青木が斬る」vol.2~後編~

2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(41)。複数の書籍も出版し、文筆家としての顔も持つ。また自ら「note」でも発信をし続け、青木の“考え方”へのファンも多い。ENCOUNTでは青木が格闘技の枠に捉われず、さまざまなトピックスについて持論を語る連載「青木が斬る」を5月に始動。連載2回目のテーマは「箱庭化~なぜクソリプは生まれるのか~」。後編では大谷翔平、井上尚弥、那須川天心を例に出し、「箱庭化」について語った。(取材・文=島田将斗)

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今年5月に行われたボクシングの世界スーパーバンタム級(55.3キロ以下)4団体タイトルマッチ12回戦。王者・井上尚弥(大橋)がWBC1位のルイス・ネリ(メキシコ)と対戦し、6回1分22秒TKO勝ちした。青木は試合中にXで「いけ!ネリ!!!」とポスト。これには多くの批判コメントが寄せられていた。

「俺がすごい嫌だなぁと思うのは異論を認めなくなっちゃうんですよね。大谷と井上に乗れないのはナショナルすぎるから。メジャーだから。みんなが批判できないんだよ。とりあえずテレビで流れているものに面白味を感じない。

クソリプや反対意見が許されないっていうのがナショナルスター。俺はそういうのはやりたいと思わない。語る余地があるほうが面白いじゃん。クソリプのクソっていうのは語る余地でもあるんですよ」

一方でこうしたスターたちの心境も「メジャーになっちゃうと大衆がうけるものしか言えなくなって創れなくなるっていう苦しさはあるんじゃないんですかね」と慮る。現に井上のネリ戦で行った挑発やあおりは一部で物議をかもしていた。

メジャーに挑戦しつつも自分の創りたいものを見せようとしている選手がいる。“神童”と呼ばれる25歳・那須川天心だ。

「那須川天心は尊敬していて、『やっぱりすげぇな』って思う。あいつとか言うと怒られちゃうけど、あいつは俺と同じ“宗派”だなと思うことがある。その意味で“賢い”」

同じ表現者として手放しで称賛。発言だけでなく、入場コスチュームなど試合までの入りにまで注目していた。

「那須川天心にしか分からないような。どう読み解くかみたいな余白のあるものを創っていくんですよ。ちょっと悔しいなって思っちゃう。入場のコスチュームとか見ても『今回こういうテーマなんだ』と思うことがある。ブランドとして黒で作ってきたり、アントニオ猪木っぽい人生のホームレスで作ってきたりとかさ。

描きたいものが伝わってくるんですよ。客とそういう意味で勝負してる。あれを俺みたいな立ち位置ではなくて、メジャーでやってるのはすごいと思う。あいつは本当に異常なほどすごいと思う」

天心とは直接話したワケではない。それでも「言っていることが分かる」という瞬間は多々ある。

「有名な人が言った方がすごくなっちゃうからあれだけど、たぶん俺にインスパイアされてると思いますよ。言葉の使い方とか。演者とか芸事とか言わなかったし。使われてるんだなって思いながらも『ありがとうございます』。彼がやってることは分かりますよ。『神社仏閣みたいになりたい』って言うのも俺も言ってるし、そういうのがピシッとハマってきているんじゃないですかね。天心は余白を作ってくるうまさが異常」

一部では「天心ポエム」と揶揄されるが、これは天心なりの「意思表明」だと青木は言う。

「『俺はこういうことがやりたい』『俺はこういうものである』。それを好きな人だけちゃんと見てくれと伝えて。ブランドになろうとしているんだよね」

ボクシングに転向した天心が歩んでいるのはメジャーの道。「彼は俺みたいなことをやりたいと思うけど、できないと思う。それは彼がメジャーに行くから。みんなが見るからディズニーランドのミッキーみたいでいなきゃならないと思いますね」と苦笑いする。

「無理とは言わないけど、本当にナショナルを相手にするなら難しいと思う」と厳しい道のりであることを理解しながらも、どこか期待もしていた。

□青木真也(あおき・しんや)1983年5月9日、静岡県生まれ。第8代修斗世界ミドル級王者、第2代DREAMライト級王者、第2代、6代ONEライト級王者。小学生時に柔道を始め、2002年には全日本ジュニア強化指定選手に。早稲田大在学中に総合格闘家に転向し03年にはDEEPでプロデビューした。その後は修斗、PRIDE、DREAMで活躍し、12年から現在までONEチャンピオンシップを主戦場にしている。これまでのMMA戦績は59戦48勝11敗。14年にはプロレスラーデビューもしている。文筆家としても活動しており『人間白帯 青木真也が嫌われる理由』(幻冬舎)、『空気を読んではいけない』(幻冬舎)など多数出版。メディアプラットフォーム「note」も好評で約5万人のフォロワーを抱えている。島田将斗

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