【磐田】後半戦で、より高みへ。内外に熱量を示したヴェルディ戦の勝利。“最低目標”勝点40を超えていく戦いに挑む

J1の折り返しとなる第19節のセレッソ大阪戦を1-1で引き分けたジュビロ磐田は、この時点で勝点20。横内昭展監督が率いて2シーズン目となる磐田にとって、この数字が意味するものは重い。開幕前から目標の最低ラインとして設定していたのが、勝点40だったからだ。

つまりシーズンの2分の1で、ちょうど半分の勝点となる。横内監督はこれまでの戦いでも、いくつか取れたはずの勝点を逃したことを認めるが、端的に言えば、前半戦より後半戦の方がチームとして成長していなければ、シーズンで勝点40を上回ることができない。

しかも、J1のライバルたちも一巡目と全く同じはずがなく、成長角度で上回る必要があるのだ。二巡目のスタートとなる第20節の東京ヴェルディ戦は、非常に大きな意味を持っていた。

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目の前の1試合、1試合に100%で臨むのが横内監督のモットーだが、前半戦の19試合を振り返ると、成長した試合がいくつかある。J1王者の基準の高さを思い知らされたヴィッセル神戸との開幕戦(0-2)、一度は2-0とリードを奪いながら、後半に追い付かれて引き分けた第9節のアビスパ福岡戦、開幕時よりは成長を感じさせたものの結局、プレー強度や正確性、決定力など、総合的に下回る形で0-2と敗れた第17のサンフレッチェ広島戦など。

第12節に行なわれた東京ヴェルディとのアウェーゲームは、それらの試合とはまた別の視点で、磐田にとって苦い経験となった。不運なハンドによるPKなど、前半で2点をリードされたが、横内監督は後半スタートから切り札の古川陽介を投入し、左サイドのクロスから、相手のクリアボールを拾ったFWマテウス・ペイショットが流し込んで1点を返す。

なおも反撃を繰り出す磐田。途中出場のブルーノ・ジョゼが右サイドから鋭く仕掛けてクロスを上げると、相手のブロックで浮いたボールにFWジャーメイン良が飛び込んで、豪快なヘディングシュートを決めた。

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これが当時、得点ランキングのトップを走っていたジャーメインにとって、12試合で11得点目だった。しかし、この時に相手ディフェンスとのコンタクトで、額の左側を負傷してしまったのだ。

後に陥没骨折という重傷であったことが判明するが、そのままプレー続行したジャーメインはPKのチャンスを外し、それでも逆転勝利を目ざして攻め続けた磐田は裏返しのカウンターを受ける形で、センターバックのリカルド・グラッサが決定機阻止で退場に。

10人になった磐田の横内監督は、途中出場だったMF藤原健介を下げて、U-23アジアカップから帰国したばかりのDF鈴木海音を投入したが、後半アディショナルタイム9分に守備の連係ミスを突かれて、FW木村勇大に決勝ゴールを叩き込まれた。

屈辱的な敗戦。そして、ここまでチームの攻撃を牽引してきたエースが不慮のアクシデントで離脱、守備の要であるリカルド・グラッサまで出場停止で欠く事態に。

そうしたショックも影響してか、翌節に19位だったサガン鳥栖に今シーズン最低とも言えるパフォーマンスで0-3の大敗を喫すると、続く最下位の北海道コンサドーレ札幌とのアウェーゲームも0-1で落とし、3連敗となった。

振り返れば序盤戦にも柏レイソル、ガンバ大阪、鹿島アントラーズを相手に3連敗しているが、J1の高い基準に慣れるためにもがいていた当時とはまた違う、悪い流れに入ってしまった。

横内監督や選手たちも努めて気丈に振る舞ってはいたが、今シーズンで一番苦しい時期だったことは間違いない。

そんな磐田に希望の光を照らしたのが、序盤戦の多くの試合をベンチ外で過ごしてきたMF金子翔太だった。正念場となったホームの浦和レッズ戦(15節)、0-1で迎えた71分に、松本昌也のクロスを左の平川怜が折り返すと、上原力也が放ったシュートのこぼれ球を金子が押し込んだのだ。

どんな状況でも明るく、腐らずトレーニングに励んできた金子の同点ゴールというのは、チームを4連敗の危機から救うだけでなく、公式戦の翌日に行なわれる練習試合や紅白戦のサブ組で一緒にやってきた選手たちにも刺激を与えた。

そこから代表ウィーク前の広島戦ではアウェーで力負けしてしまったが、ジャーメインがベンチに復帰したFC東京戦、C大阪戦と上位の相手に引き分けて前半戦を終えた磐田は、後半戦のスタートとなる東京V戦で3-0の勝利を収めた。

この試合でもジャーメインのPK失敗という前回の対戦がよぎる出来事があり、前半の終わりの方にはマテウス・ペイショットの不可解なファウルなど、レフェリーのジャッジに苛立ちを見せてしまい、ヴェルディ側に流れを持っていかれる時間もあった。

それでも後半のキックオフ前にはマテウス・ペイショットやGK川島永嗣がレフェリーに明るく声をかけるなど、うまく切り替えられていることを示していた。

横内監督はハーフタイムのロッカールームに関して「ジャメ(ジャーメイン)がPKを失敗して、ショックはあったと思いますけど、ジャメに対していろんな選手が声をかけていましたし、そのプレーのあとも変わらずにやり切ってくれていたと思います。選手たちからも“後半、いけるぞ”という雰囲気は感じました」と振り返る。

この試合は金子が左サイドハーフ、ブルーノ・ジョゼが右サイドハーフでリーグ戦の初スタメンとなったが、ジャーメインのスルーパスに抜け出した金子の惜しいシュートに始まり、結果的に得点できなかったが、ブルーノ・ジョゼが鋭い飛び出しでPKを獲得するなど、二巡目のスタートでようやくスタメンのチャンスをもらった二人が攻撃を活性化して、後半の3得点に導いたことが、この日の磐田のパフォーマンスを象徴していた。

その二人も絡む形で、相手のオウンゴールで先制点を奪うと、ブルーノ・ジョゼが獲得したCKから上原のキックにマテウス・ペイショットが豪快に合わせて追加点。そして途中出場の古川陽介が、自陣から60メートルをドリブルして、最後は左斜めの位置から右足のシュートを突き刺す、待望の今シーズン初ゴールで締めくくった。

3得点を挙げた攻撃に目が行きやすいが、木村やFW染野唯月といった危険なアタッカーを封じて、無失点の勝利を支えたディフェンス陣の奮闘も見逃せない。

前回はリカルド・グラッサの退場で、急きょ投入されて最後の失点に絡んでしまった鈴木は「前回のアウェーの試合で3失点してるなかで、ゼロで抑えられたのは自分としても嬉しいですし、この前は途中出場で、2-2からゴールを決められて、2-3になってしまったのは責任を感じていたので。勝利だけじゃなくてゼロで抑えたのは良かった」と振り返った。

これで磐田は20試合を終えて勝点23となり、勝点40ペースを少し上回る形となった。ヴェルディ戦の勝利の意味を横内監督に聞くと「前回対戦したアウェーのヴェルディ戦に負けたのは本当に悔しかった。J2で切磋琢磨しながら一緒に上がったチームで、去年も勝つことができずに、前回もそこに手が届かなかった。本当に悔しい思いをした。それは僕だけじゃなくて、選手もそう思っていましたし、その悔しさを忘れずに選手たちはピッチで表現してくれた」と答えた。

そうした気持ちという部分は、一つひとつのデュエルやセカンドボールの奪い合いでも感じられたが、チームのベースとしても守備の連動や攻撃のイメージ共有、コンパクトな関係を90分、維持する意識、そして交代選手の躍動と、前半戦からの確かな成長を示す試合でもあった。

もちろんヴェルディ側からすれば、城福浩監督が「軽かったの一言ですね。前線の追いも甘いですし、誰かが三度くらい追いかけて全員を鼓舞するような走りをしたか。誰かが頭を投げ出したり、身体を張るようなプレーをしたか。僕には感じられませんでした。今年最低の試合をしたと思っています」と話すように、また別の見方があるだろう。

磐田としては、ここからの18試合の内容と結果で、さらなる成長を証明していくしかない。先述の通り、横内監督は勝点の最低目標を40に設定している。一部で誤解される報道もあったが、あくまで最低目標であり、そこにいち早く到達して、1つでも上の勝点、順位を目ざしていくことが、ここからの戦いになってくる。最低目標は設定するが、上限を設定していないのは、ある種の横内監督らしさかもしれない。

ここから前向きに上を目ざすんだという雰囲気が、チーム内だけではなく、サポーターを含めた外側にも熱量を示していけるヴェルディ戦の勝利だった。そのことを横内監督に伝えると「そういうふうに捉えられるゲームの内容というか、試合だったというのは、ヴェルディ戦は、我々が思ってる以上に、観ている人にそう感じてもらえるゲームがすごく大事だと僕は思ってます」と答えてくれた。

「そういうふうに思ってくれる人が一人でも多くいてくれるゲームを、我々は続けていかなきゃ行けない。それで自分たちの目標であるところに近づいて行くかなと思ってます。我々チャレンジャーではありますが、J1で1つでも上の順位、我々の上にいる順位のところに入れ替わっていける、そういう戦いをしていきたい。もちろん下を見るのではなく、常にそういうところを見ながらプレーし続け、戦い続けたいと思います」

もちろん、この勝利で残留が約束されたわけではないが、より上を見て、高みを目ざしていく戦いへ。6月30日、埼玉スタジアムに乗り込む浦和との一戦で、磐田がどういったパフォーマンスを見せるのか。飽くなきチャレンジャーの挑戦は続く。

取材・文●河治良幸

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