【社説】旧文通費の改革 あとは首相の行動だけだ

国会議員に月100万円が支給される調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の改革が一向に進まない。

改める点は定まっているのに、先の通常国会でも先送りされた。いつまで棚上げを続けるのか。

旧文通費の問題が広く知られるようになったのは、岸田文雄政権発足後の2021年10月31日に投開票された衆院選がきっかけだ。

10月の在職が1日だけの新人議員にも1カ月分が満額支給された。当選したばかりの議員が疑問の声を上げると共感が広がり、見直し論議が始まった。

名称の通り、元は公的な書類の発送や通信に充てるよう規定していた。実態は秘書の人件費や事務所経費、飲食代などにも使われている。

税金で賄われているにもかかわらず、使途を報告する義務はない。目的外に流用しても、国民にはチェックするすべがなく「第2の歳費」と呼ばれている。

与野党は22年4月の法改正で、在職日数に応じた日割り支給に変更した。

これに乗じて、使途を「国政に関する調査研究」「国民との交流」などに広げ、都合よく使えるようにした。名称も変更した。お手盛りと言うほかない。

旧文通費改革の要点は、使途の公開、使わなかった残金の国庫返納の義務化である。

通常国会では、裏金事件を巡る政治資金規正法の改正と併せて議論されたものの、またも実現しなかった。

要因は自民党のやる気のなさにある。使途が不透明なカネで、国民から「議員特権」と批判されても手放したくないのだろう。

通常国会では、旧文通費改革が規正法改正の取引材料にされた。

自民党総裁の岸田首相は日本維新の会の馬場伸幸代表との間で、使途公開と残金返納を義務付ける立法措置に合意して文書を交わした。旧文通費の改革に力を入れる維新から、規正法改正案への賛成を取り付けるためである。

維新が賛成して衆院を通過すると、自民は旧文通費について「日程が厳しい」と会期中の法改正を否定した。維新は「うそつきだ」と強く反発したものの、自民にしてやられた格好だ。

岸田首相は党首討論で「一刻も早く成立させたいという思いは偽りありません」と述べた。これまでの言行不一致を考えれば、にわかに信用することはできない。

共同通信社が今月下旬に実施した世論調査では、旧文通費の使途公開の義務化が「必要」と答えた人は8割を超えた。国民が早期改正を求めているのは明らかだ。

審議時間が足りなくて通常国会での改正を見送ったのであれば、次の国会を待たずに閉会中も議論をすればよい。「政治とカネ」に対する国民の目は厳しさを増す。言い訳はもう通用しない。

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