かつての2強「横浜FM」と「川崎」はなぜ凋落したのか(3)「独自スタイル」町田、「ポポヴィッチ就任」鹿島、「天才エース復活」G大阪に…勝利するためには

ダニエル・ポヤトス監督が守備を整備し、エース宇佐美貴史(左)が彼のキャリアでも最高に近いプレーを見せることで、上位浮上のガンバ大阪。原悦生(Sony α1使用)

今季のJリーグもシーズンを折り返した。さまざまな変化が見られる中、気になるのが横浜F・マリノスと川崎フロンターレの不調である。近年のJ1を席巻してきた2強は、なぜ急激に勢いを失ったのか。サッカージャーナリスト大住良之が考察する。

■「変化する」ライバルと「変わらない」2強

ヴィッセル神戸は堅固なチームを築き、FC町田ゼルビアは独自のスタイルで首位に立ち続けている。さらに今シーズン、町田の首位を脅かす地位にいる2チーム、鹿島アントラーズとガンバ大阪も、昨年までとは違うサッカーで勝点を積み重ねている。

鹿島はJリーグが始まった頃から貫いてきた「ブラジル・スタイル」から「欧州スタイル」への転換を図る中、タイトルが遠ざかっていたが、今季ランコ・ポポヴィッチ監督が就任、若い選手を積極的に起用した、攻守にアグレッシブなサッカーで完全に息を吹き返した。

G大阪は、ここ数年間、残留争いをするような状況だったが、就任2シーズン目のダニエル・ポヤトス監督が守備を整備し、エースの天才選手・宇佐美貴史が彼のキャリアでも最高に近いプレーを見せるようになって勝ち点を伸ばした。20試合で14失点(最少記録)が、G大阪の変貌を物語っている。

それに対し、横浜FMと川崎は、「2強時代」とほとんどイメージの変わらない試合を見せているように感じる。もちろん選手は変わっているのだが、攻撃でも守備でも、選手たちの判断やアイデアが「2強時代」そのもののサッカーしかできていないのだ。

■チームに「求められる」イノベーション

サッカーはイマジネーションのゲームである。どんなに精度の高いパスワーク、どんなにスピードのある攻撃でも、守る相手側の選手たちが、あらかじめそのイメージを持って対応できれば、なんとかしのぐことができる。そうやって横浜FMや川崎が得点できないうちに、相手チームは横浜FMや川崎の「前がかり」の逆をつき、ゴールを奪ってしまう…。そうした試合が繰り返されたのが、Jリーグ2024シーズンの前半戦だった。

「イノベーション」というのは、経済や産業で使われるようになった言葉であり、「技術革新」「新機軸」などと訳されている。「ノブス(新しい)」という意味のラテン語から発生した言葉であるという。それまでどおりに続けるのではなく、新しいものを常に考え、加えていくことによって、成長をもたらそうという考え方であると、私は解釈している。

どのチームも、毎シーズン、「イノベーション」を試み、チームのバージョンアップや新しい方向性でより良い成績を成し遂げようと努力している。もちろん成功することだけでなく、失敗に終わるケースもあるが、サッカーのチームというものは、常にイノベーションにトライしていかなければならない運命にある。

■「本来のサッカー」を取り戻すよりも…

欧州には、ブンデスリーガで10連覇という快挙を成し遂げたバイエルン・ミュンヘンのように、長期間強いチームを保ち、勝ち続けるクラブがある。だが、それが成し遂げられたのは、同じ監督の指揮下であっても、常にチームをイノベーションしてきた結果にほかならない。よりレベルの高い選手を獲得してチーム内の競争を保ち、新しい戦術にチャレンジして、チームを変え続けてきた結果なのである。

今季の横浜FMと川崎を見ていると、そうした要素があまり見えてこない。「何とかして本来のサッカーを取り戻そう」という方向性に終始しているように見えてならないのである。それが現在の順位として表れているように思う。

シーズン中の「イノベーション」は簡単ではない。しかし、不可能ではないし、それができなければ、2クラブとも、現在とあまり変わらない順位でシーズンを終えることになるのではないか。選手の顔ぶれも。同じ選手でも、昨年までの力を保持しているとは限らない。思い切った若手への切り替え、ポジション変更、システムの変更など、できることはいくつもある。

横浜FMと川崎は、勇気を持ってチームのイノベーションを断行する必要がある。

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