トップ営業がアナログのメモを活用し続けるワケ

営業活動にかぎらないが“大切なことはメモをしなさい”と言われてきた。人間の記憶力ほどあてにならないものはない。大切なことでさえコロッと忘れてしまうこともあれば、間違って記憶してしまうこともある。メモの重要性を否定する人はいないだろう。しかし、効率化やコスト削減、環境保護を目的とするペーパレス化が主流となった今、アナログのメモをとる人は減っている。パソコンやタブレットに入力する営業のほうが多いだろう。そんな中、トップ営業スタッフはアナログのメモを活用し続けている。ヒアリングやクレーム処理において効果を発揮することを知っているからだ。今回はトップ営業スタッフのメモの活用法について紹介させてほしい。

“要望が反映されていない提案書”にガッカリ

お客様と商談する際、“手帳やノートにメモをとる”といった営業スタッフがどれほどいるだろうか? 今はかなり少なくなっただろう。

先日、資産管理の営業スタッフと面談した際に、いろいろと要望を伝えた。営業スタッフは話を聞きながらタブレットに入力していた。入力というか、なにかを選んでタップしているといった感じだった。

それを見て「細かい要望をメモしなくて大丈夫かな」と少し心配になったものの、そんなに内容は複雑ではない。この程度ならば問題ないと思いながらその日の面談は終了した。

そして、後日提案書が提出された。提案書を見ると私の要望が反映されているとは言えない内容だった。しかも「これだけは忘れないでください」といった内容が入っていない。きっと忘れてしまったのだろう。とにかくこの提案書にはガッカリした。

この営業スタッフは感じの良い人で、よほどの問題がないかぎりお願いしようとも思っていたが、この提案では話を進める気にならない。当然のことながら、この話はお断りした。

聞いていた要望をタブレットだけに入力し、必要なことを書き留めない。お客様から話を聞いているときは、「この程度の内容なら覚えているだろう」と思ってしまうのも理解できる。

しかし、1日経ち、2日経つと「あれ? なにか重要なことがあったと思うが……」と曖昧になってしまう。人の記憶はそんなものだ。

「エビングハウスの忘却曲線」で言われる、次のようなデータも有名だ。

  • 1時間後には56%忘れる
  • 1日後には67%忘れる
  • 2日後には72%忘れる

もちろん個人差はあるが、人の記憶はこんなもの。試しに2日前の晩ご飯を思い出してみてほしい。よほどインパクトがないかぎり、忘れているものだ。

営業力がなくて断られるのは仕方がないこと。しかし、単なるミスでチャンスを失うのは悔しい。今回の商談もメモをしていればかんたんに防げたことだ。

トップ営業スタッフはお客様から要望を聞く際、必ずメモをとる。しかも、タブレットやパソコンも使うが、しっかりとアナログのメモ帳に書いていることが多く、要望のモレがなく、マッチした提案をしている。そのほかにも、アナログのメモには商談を有利に進める効能がある。具体的な事例を紹介しよう。

深い話を引き出す効果も? クレームにも有効なメモの力

保険の営業スタッフと話をしたときのこと。「これからいくつか質問させてください」と言ってタブレットとメモ帳を出した。基本的にはタブレットに入力している。しかし、重要なポイントはメモ帳に書いていた。

リアルでメモを取ってもらうと「私の話を真剣に聞いてくれている」といった印象を受ける。だからこそ、こちらも真剣に話そうと思う。いつも以上に深い話をした。

それからしばらくして提案書が送られてきた。ひと目見て「まさにこれだ」と納得。スムーズに契約になったのだ。

リアルでメモをとることで一段階深くヒアリングできるし、要望のモレもなくなる。またメモは“クレームを最小限に抑える”ことが可能になる。この効果も見逃せない。

たとえば、お客様からクレームをいただいたとする。

多くの営業スタッフはまずはどんな状況かを聞くだろう。聞いているうちにお客様が勘違いしている部分が出てくることもある。思わず「それは契約のときも説明しましたが……」と口を挟んでしまうことも。どんなに正論であっても途中で口をはさめばお客様の怒りはヒートアップする。クレームはこじれ、悪化させてしまう。これはマズイ。

さらにメモせずに約束を忘れてしまえば大ごとに。ほかの営業活動に大きな支障が出てしまう。トップ営業スタッフはお客様からクレームをいただいたら、手帳やノート出してお客様が言った内容を書いていく。書くことに集中すれば、反論もしなくなるもの。

さらには“記録されている”という意識が働き、お客様は冷静になりやすい。丁寧に書き留めるだけで「しっかり対応してくれている」といった印象も与えられる。トップ営業スタッフはこうしてクレームのダメージを最小限にしているのだ。

メモすることでクレームは最小限になるし、忘れて対応が遅れることなんてことには決してならない。うまく対応すれば逆に信頼関係を深めることもできる。クレームをこじらせて営業活動に支障をきたすのか、それとも最小限におさめ、さらには信頼を深めるのか、これは大きな差になる。

トップ営業スタッフはアナログのメモをうまく活用し、苦戦している営業スタッフは軽視している。メモの力をあなどってはいけない。ぜひあなたもアナログのメモでほかの営業スタッフに差をつけてほしい。

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