「京都」知る人ぞ知る「アジサイの名刹」 5000株の極彩色絶景が美しい“国民的低山”ハイキング「現地レポ」

楊谷寺の花手水(撮影:山本佐和​​)

梅雨の季節は、どうしてもアウトドアに足が向かないという人も多いだろう。特に初心者の人は、上級者に比べて慣れてないがゆえにいっそう億劫に感じるかもしれない。けれど、そんな梅雨だからこそぜひ訪れてほしい低山ハイキングがある。

向かったのは、京都府大山崎町にある天王山(標高270m)。豊臣秀吉と明智光秀による「山崎の戦い」や幕末の「禁門の変」で知られ、合戦にゆかりのある城跡などをめぐるハイキングコースが人気を集めている山である。

合戦の歴史ばかりが注目されがちだが、実はこの天王山には、知る人ぞ知るアジサイの名所「柳谷観音 楊谷寺(やなぎだにかんのん ようこくじ)」が鎮座しているのだ。境内に咲き誇る約5,000株のアジサイが非常に美しく、梅雨のハイキングにうってつけの場所である。 今回は、そんな楊谷寺を含む天王山の低山ハイキングをご紹介する。

■涼しげな川沿いをのんびりハイキング

ハイキングの最寄り駅は、阪急西山天王山駅。京都駅から約30分というアクセスの良い場所だ。

駅の改札を出て左手に行くと、府道79号線が走っている。まずはこの大通りに沿って、山の方に向かって進んでいこう。道路の上にある歩道を歩くのも府道を上から眺められて圧巻だが、川沿いの道もまた気持ちがいい。

府道沿いを山に向かって進めばいいので、迷う心配はない。近所の住民と思われる人たちが、のんびりと散歩している風景はとても心が癒される。

この川は小泉(こいずみ)川といい、とても水が澄んでいて水鳥の姿やカメが甲羅干ししている姿が見られる。知っている人も多いかもしれないが、大山崎には「サントリー山崎蒸溜所」があって、天王山は「天然水の森」と言われている。天王山の清らかな水が、ウイスキーに欠かせない原材料となっているのだ。

河川敷を30分ほど歩いたあとは、登山道(こちらも府道79号線)を進む。整備されていて初心者でも楽に歩けるが、広い道で木陰が少ないので水分補給を忘れずに。時おり走ってくる車にも注意しながら登っていこう。

■約1200年もの歴史を持つ柳谷観音楊谷寺

西山天王山駅から1時間半ほどで楊谷寺に到着だ。豊かな自然を背景に、大きな山門が堂々と佇んでいる。
楊谷寺は、平安時代の806年に清水寺を開山した延鎮僧都(えんちんそうず)によって開創された。古くから眼病平癒の祈願所として天皇家をはじめ多くの人々の拠り所となり、1200年以上経った現在でも信仰を集めている。

広々とした境内には本堂をはじめ、奥之院や書院、稲荷大明神などが鎮座しており、歴史ある建造物と風情ある庭園をたっぷりと見て回ることができる。

また、四季折々の花手水(はなちょうず)も見所だ。花手水とは、お参りをする前に手や口を清める「手水」に花を浮かべたもの。「歴史と四季を感じられる聖地に」「五感を通じて心に平安」という思いから、数年前から始められたそうだ。

境内に数か所あるので、どんな花が浮かべてあるのかぜひ探して楽しんでみよう。

■美しいアジサイを堪能

一番の見所は、やはりハイキングの目的でもあるアジサイである。境内には約27種5,000株ものアジサイが咲き誇り、7月上旬頃まで色とりどりの共演を楽しむことができる。

筆者が訪れたとき、紫陽花はまだまだ咲き始めだったが、あじさい回廊やアジサイを用いたアートなど参拝者を楽しませる工夫がたくさんされており、梅雨の季節ならではの風景を心ゆくまで堪能することができた。

■天王山山頂を目指してハイキング

楊谷寺を満喫した後は、天王山山頂を目指す。最初の広い府道と違って、木漏れ日が心地よい山道である。

15分ほど歩くと乗願寺(じょうがんじ)という寺があり、かわいらしい猫たちが出迎えてくれた。

乗願寺の創建や変遷については詳細は不明だが、始まりは平安時代とされており、江戸時代の1791年に現在の本堂が建立されたそうだ。

境内でくつろぐ猫たちの姿がなんとも微笑ましい。こんなちょっとした出会いもハイキングの癒しの一つだ。

天王山山頂へのハイキングコースは、乗願寺の近くの田園にある。田園を抜けると本格的な山道に入るが、急勾配が少なく緩やかな道なので初心者でも登りやすく安心である。

■合戦の歴史に触れる

ハイキングコースに入って、約1時間ほどで天王山山頂に到着だ。山頂広場にはベンチやテーブルも設置されているので、のんびり弁当を食べながら過ごすのもおすすめだ。

また、天正10年(1582年)に羽柴秀吉と明智光秀が戦った「山崎の戦い」の歴史を紐解く大きなパネルが設置されている。山頂から下山する道の随所にはこのパネルがあるので、山の景色と歴史を重ねながら下りていくのが醍醐味である。

また、下山の際にはパネルだけでなく、奈良時代に創建されたといわれる酒解神社(さかとけじんじゃ)や、豊臣秀吉ゆかりの宝積寺(ほうしゃくじ)といった見所も満載だ。行きと違った魅力が詰まっているので、帰路に着くまで新鮮な気持ちでハイキングできるのがうれしい。

美しいアジサイと合戦の歴史を楽しめる天王山ハイキング。梅雨の季節にしか出会えない景色を見に出かけてみてはいかがだろうか。

西山天王山駅から楊谷寺(1時間30分)→楊谷寺から乗願寺(15分)→乗願寺から天王山山頂(1時間)→ 天王山山頂から大山崎駅(45分) トータル3時間

柳谷観音 楊谷寺
住所:京都府長岡京市浄土谷堂ノ谷2

※この記事の情報は2024年7月現在のものです。内容が変更される場合もありますので、最新の情報はリンク先のHPでご確認ください。

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