描くのは「13歳少年と36歳女性の不倫騒動」そのものではない?実話ベースの衝撃作『メイ・ディセンバー ゆれる真実』脚本家が明かす真のメッセージ

『メイ・ディセンバー ゆれる真実』©2023. May December 2022 Investors LLC, ALL Rights Reserved.

本年度アカデミー賞ノミネート『メイ・ディセンバー ゆれる真実』

昨年のカンヌ国際映画祭でプレミア上映され話題をさらった、ナタリー・ポートマン×ジュリアン・ムーア豪華共演のトッド・ヘインズ監督最新作『メイ・ディセンバー ゆれる真実』が、2024年7月12日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開となる。

本作は90年代に実際に起こった、13歳の少年と36歳女性のスキャンダル(通称「メイ・ディセンバー事件」)の真相をベースに、様々な角度から見つめる心理ドラマ。ふたりの関係は犯罪だったのか、純愛だったのか、はたまた他に真実があったのか……。

過去と現在、真実と憶測が混ざり合う心理戦を描き出す唯一無二の脚本を手掛けたのは、本作でアカデミー賞脚本賞にノミネートされたサミー・バーチ。ヘインズ監督はもちろんオスカー女優2人も虜にした脚本の魅力について、キャストや監督、そしてバーチ自身が語ってくれた。

初長編ながら映画賞を席巻したサミー・バーチとは何者?

本年度アカデミー賞の脚本賞にて注目を集めた人物がいた。本作の原案、そして脚本を担当したサミー・バーチだ。サミーは、本作が自身初となる長編映画の脚本でありながら、センセーショナルな内容が高く評価され、アカデミー賞脚本賞へのノミネートをはじめ、インディペンデント・スピリット賞や全米映画批評家協会賞ほか、名だたる賞レースで脚本賞を獲得している。

本作が動き出したきっかけは、バーチの脚本に魅了されたナタリー・ポートマンが、この繊細な題材に興味を持つであろう監督、トッド・ヘインズに脚本を送ったことに始まる。

全米がかつてないほど騒ぎ立てた、13歳の少年と36歳の女性の不倫騒動<メイ・ディセンバー事件>そのものを描くのではなく、事件のその後を描いた脚本は、バーチの鋭い洞察力と、幾重にも重なる問いかけに満ちていた。

ヘインズ監督は脚本を夢中になって読んだ当時を振り返り、「数々の脚本を読んできたが、サミーの脚本は飛び抜けて印象的だった。道徳的には不確かな要素が多いが、だからこそ、あらゆる感情が渦巻いている脚本だったんだ」と語る。

「この映画には、答えよりも問いかけの方が沢山ある」

もともと映画化されるあてもなく、心の赴くままに書いた脚本が、今や世界から脚光を浴びている現状を「夢のよう」だと言うバーチ本人は、「世間がニュースをどのように受け止め、どのようにセンセーショナルに扱われてしまうのかという過程を、この映画は描いている」と話す。

バーチが着想を得たのは、自身が育った90年代の“タブロイド文化”だった。タブロイド紙に大きく掲載された事件が、犯罪ドキュメンタリーや犯罪ドラマになり、高い視聴率を獲得しながら“実在の事件に基づくジャンル”として人気コンテンツとなっていく流れを見つめ直したのだ。

未解決であったり、裁判がまだ行われている事件であっても、真実とフィクションの境目は薄れ、ミニシリーズ化されていくような実態、そしてセレブリティが関わる事件ほど大騒動になることも冷静に振り返った。その上でバーチは、本作を作る際に人物や物語を“フィクションとして”伝えるため、事件をその通り描くのではなく、20年後という設定で少し距離を置きながら、回顧するという形をとることにしたのである。

“トゥルークライムもの”が流行化する現状には様々な感情が沸き起こるけれど、観客に「あなたたちはこう思うべき」と言うことはしたくなかった。この映画には、答えよりも問いかけの方が沢山ある。

「大きな罪を犯しているにも関わらず、問題ないふりをして生きている」

またバーチは、普段から脚本を書き始める前にキャラクターの過去を描くようにしているという。その“過去”は誰に見せるわけでもなく、もちろん本作のキャスト陣もバーチが思い描いた登場人物の過去を読むことはない。実際に生きている人間のようなキャラクターを描くための、あくまで自身のための作業なのだ。

脚本に描かれる登場人物の細やかな設定を高く評価したジュリアン・ムーアは、「事件の当事者であるグレイシーは、大きな罪を犯しているにも関わらず、問題ないというふりをして生きている。グレイシーの価値観を理解するのは容易ではないけれど、サミーの脚本から、グレイシーは自分自身を純粋無垢な子供のようにとらえ、夢のような大恋愛をした女性であると考えていることを掴んだ」と振り返っている。

本作には全米でも多くの反響があり、観客の感想として「すごく面白かったし、風刺が効いていた」という声や、 「シリアスで全く笑えなかった」という声も、バーチの耳に届いているそうだ。これらの反応に対し彼女は、「どちらも、この作品を理解している証拠。両方のトーンが混ざっているから。それが人生というものだからね」とコメントしている。

『メイ・ディセンバー ゆれる真実』は2024年7月12日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

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