“全国で最も厳しい” 県独自の盛土規制条例 再発防止の使命と経済活動の両立なるか 熱海土石流災害から3年=静岡

7月3日、静岡県熱海市で発生した土石流災害から3年を迎えます。

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熱海土石流を教訓に施行された“全国で最も厳しい”とされる静岡県独自の盛土規制条例。工事の遅れや厳しい検査への費用増加などで、建設工事全体の収益が圧迫されていると、改正を求める声が上がっています。

<被害者の会 瀬下雄史会長>
「ここで穏やかな余生を過ごすはずだったのにね。海が見えて、初島が見えて最高の景色ですもんね。何とも言えないですよね」

「被害者の会」会長の瀬下雄史さん。当時77歳の母親は、夫婦の終の棲家として選んだこの場所で土石流に巻き込まれ、命を落としました。

<被害者の会 瀬下雄史会長>
「母はごみにまみれて殺されたんです。それが事実なんだと思っています」

28人が死亡した熱海土石流災害。違法な盛り土が被害を拡大したとされ、業者による造成を食い止められなかった反省から、静岡県は“全国で最も厳しい”盛土規制条例を施行しました。

静岡市葵区の建設会社が管理する残土の保管場所。市内最大、10トンダンプ約3000台分の建設残土を保管できますが、条例によってこの大量の土砂の処分費用に影響が出ています。

<静岡西部建設 梅原義隆社長>
「処理の基準が一段上に、厳しくなった中で、罰則規定も設けられたので、処分業者がびっくりしたというか、構えてしまって、いろんな対応に追われていた。処理費用も、管理が一段増えたことによって、処理費用も2倍、3倍への増えていった状況」

実は、県の盛土規制条例の役割は「災害の防止」だけではなく、「生活環境の保全」、つまり“汚染土壌の規制”にもあります。実際に、熱海土石流で盛り土から流れ出した土砂からは汚染物質が検出されていて、専門家も防災の観点だけでは規制が不十分と話します。

<静岡産業大学 小泉祐一郎教授>
「熱海土石流災害は単なる土砂災害ではなく、汚染土壌の投棄や土捨てによって起こった環境問題でもあると」

条例では、汚染土ではないか、1回数十万円する検査を厳格に求めていて、何度も行う検査費用が収益を圧迫しているといいます。

<静岡西部建設 梅原義隆社長>
「ノーチェックで捨てたり、処理するのは良くないが、搬出前に一度、チェックしたものを二度も三度もチェックし直すような作業は、もうちょっと簡略化できれば、私たちの立場からすると効率が上がってくるかなと感じています」

<鈴木康友知事>
「知事として(盛り土条例の)必要性は感じておりますけれども、中身について今、委員会で議論を進めておりますので、改めて、その議論がまとまり次第で」

発災から3年の2024年、条例を取り巻く環境は変わり始めています。業界からは「廃止」を求める声が大きくなる中、県議会の特別委員会では改正なども視野に検討を継続しています。

母を亡くした瀬下雄史さんは、土石流の教訓から生まれた条例の意味を大事にしてほしいと、知事と面会して意見書を提出する予定です。

<被害者の会 瀬下雄史会長>
「条例をただ単に緩くするとか、なし崩し的なものに改悪することはしないでほしい。安全を最優先に、再度条例の見直しを行ってほしいと意見書として述べさせていただいている」

発災から3年で分岐点に立った条例。再発防止の使命と経済活動の両立を果たせるのか。その行方に注目が集まります。

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