【中国】車業界がハンガリーを要衝に[車両] 工場急増へ、際立つ親密外交

中国自動車業界がハンガリーを欧州事業の要衝に位置付けている。車載電池企業を中心に業界企業は同国での工場建設を積極化。ハンガリーがもともと自動車業界の優良投資地であることに加え、同国が中国との関係を深めていることが背景にある。欧州連合(EU)が中国製品への課税を強化する流れにある中、ハンガリー生産は有力な関税回避策にもなる。

車載電池の世界1位と2位がともにハンガリーに工場を設ける。1位の寧徳時代新能源科技(CATL)は22年に工場建設計画を発表し、23年に着工した。26年に出荷を開始する予定。2位の比亜迪(BYD)は23年に工場を着工した。

世界トップ10社に入る欣旺達電子(SUNWODA)も23年に建設計画を発表。同じくトップ10の恵州億緯リ能(EVEエナジー、リ=金へんに里)は、23年に着工しており、26年の稼働を目指している。

車載電池企業の動きは川上の電池材料企業のハンガリー投資を誘発。車載電池用セパレーターを生産する雲南恩捷新材料は先月、ハンガリー工場の拡張計画を発表した。

自動車工場も設置する。「新エネルギー車(NEV)」の世界大手でもあるBYDは23年末、ハンガリーに乗用車工場を設置すると発表した。同社にとって欧州初の乗用車工場となる。

■チャイナマネーで潤う

ハンガリーにはもともと自動車関連企業が集まっている。ドイツ企業を中心に自動車メーカーが以前より工場を設けていることから、各部品の工場も多く、ハンガリーでの生産は産業集積効果を期待できる。

加えて、中国とハンガリーの関係は良好だ。ハンガリー政府は2011年に「東方開放政策」を打ち出し、ロシアや中国などとの関係を重視する方針を表明。習近平国家主席が13年に発表した巨大経済圏構想「一帯一路」には、欧州で最初に協力を約束した。

中国政府は、EUに加盟しながらロシア・中国寄りの立場を取るハンガリーを軸に国内企業が欧州市場を開拓することを期待している。一方、ハンガリー政府は中国資本の誘致を経済成長につなげる狙いだ。

ハンガリー当局によると、23年の中国からの直接投資は76億ユーロ(約1兆3,200億円)に上った。中国からの投資増加を背景に、対内直接投資全体は130億ユーロに達し、過去最高だった22年の65億ユーロの2倍となった。

EUは中国製の自動車関連品の流入に神経をとがらせている。今月4日からは中国製電気自動車(EV)に最大38.1%の追加関税を課す。同じく中国製品の流入に難色を示す米国政府は、5月に中国製のEVだけでなく、車載電池についても関税率を引き上げる方針を発表した。EUが車載電池にも排他的措置を講じる可能性は否定できず、ハンガリー生産は関税引き上げの予防的措置になる。

■投資拡大で懸念も表出

ただ、ハンガリー投資には懸念点もある。自動車業界の調査を手がける蓋世汽車の周暁鶯・最高経営責任者(CEO)は懸念点の一つとして労働力不足を挙げる。

ハンガリーは失業率が低く、ほぼ完全雇用の状態。こうした状況下で対内直接投資が急増していることから、周氏は進出企業が人材確保に苦心する可能性があるとみている。

電力・水の供給にも不安があると指摘し、インフラ整備が対内直接投資の急増に追いついていないためと説明。発電、給水設備の増設には一定の時間がかかるため、当面は電力・水の供給に不安が残る状態が続く。

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