きょうから新紙幣

 昭和世代はよくご存じだろう。1963(昭和38)年に発行された千円札には伊藤博文の肖像が使われた。白い口ひげ、あごひげをたくわえ、風格がある。すんなりその人に決まったわけではなく、明治天皇、野口英世、夏目漱石…と9人が候補に挙がっていたという▲最終的に伊藤と、実業家の渋沢栄一の2人に絞られたが、決め手は伊藤のひげだった-と「紙幣の日本史」(加来(かく)耕三さん著)にある。ひげの肖像は偽造が難しかったらしい▲伊藤と争った時よりも、新1万円札に使われる渋沢の肖像写真は10歳ほど若い。千円札候補からの“格上げ”もあり、「待てば海路の日和あり」だと、本では渋沢にいくらかの祝辞が贈られている▲大方の人にとって手にするのは少し先になるが、新紙幣がきょう発行される。偽造防止をひげの模様に頼った昔とは比べようもない。新紙幣は、向きを変えれば肖像も向きを変えたりと、精巧な技術を満載している▲セルフレジ、自動販売機、交通機関、飲食店…と、現場では機器の更新が急がれている。「今までの紙幣は使えなくなる」と交換を持ちかける詐欺がはびこる恐れもある▲まっさらなお札の新顔があり、準備に汗だくの人の顔があり、詐欺を危ぶむ渋面がある。“新紙幣の日”は顔かたちもさまざまに違いない。(徹)

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