すぐに会社をやめて!…年収450万円“仕事大好き”な64歳サラリーマン、妻のセリフに絶句→納得して「定年直前」に退職したワケ【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

人生100年時代、定年後も働こうと考えている人は多いでしょう。FP Office株式会社の工藤由美子FPによると、定年後も働き続ける意思がある場合「退職するタイミング」によって、その後の収入に大きな差が生まれるといいます。その差とはいったいなんなのか……役職定年後、再雇用で働く男性の事例をもとに、詳しくみていきましょう。

勤続42年…“仕事大好き”な64歳男性が絶句した「妻のひと言」

現在64歳のタカシさん(仮名)は、新卒からずっと同じ会社で働いています。役職定年前の年収は900万円でした。

責任感が強く、仕事が大好きなタカシさんは順調に出世コースを歩んできたものの、役員昇進は叶わず、60歳で役職定年を迎えます。会社から再雇用の打診を受けた際に提示された年収は、これまでの半分(約450万円)でした。しかし、タカシさんはふたつ返事で再雇用を快諾します。

「大事なのはお金じゃない……これからも会社から必要とされる限り働くぞ!」

減給になったあとも、仕事が好きだったタカシさんは文句ひとつ言わずに働いてきました。65歳の定年後も、嘱託社員として働く気満々です。

そんなある日、遅くまで働いて帰宅したタカシさんに対して、妻のユミコさんが深刻な表情でひと言。

すぐに会社を辞めてほしいんだけど

妻のまさかのひと言に思わず絶句するタカシさん。

(なんで……これまではどんなに遅くまで働いても文句ひとつ言わなかったのに。それに『亭主元気で留守がいい』って言うじゃないか。いったいなにがあったんだ!?)

混乱したタカシさんがひとまず理由を聞くと、ユミコさんの友人の夫が「失業給付金(基本手当)」をもらうために64歳11ヵ月で退職したとのこと。その話を聞き、タカシさんにも同じようにしてほしいと思ったそうです。

当然、妻のひと言だけで大好きな会社を辞めるわけにもいきません。ユミコさんに自分が会社を辞めるメリットについて詳しく尋ねましたが、「そこまでは知らないわ。でも、辞めたほうが得だと思ったの」とのこと。

そこで、タカシさんは以前から付き合いのあったファイナンシャルプランナーに相談してみることにしました。

64歳11ヵ月と65歳…“たった1ヵ月”でなにが違うの?

FP「退職後も働く意思があれば、『雇用保険』の給付金が受給できます。ただし、退職するご年齢が65歳未満と65歳では給付金の種類が異なります。

64歳11ヵ月で退職した場合は、要件を満たすことで『失業給付金(基本手当)』を、65歳で退職した場合は要件を満たすことで『高年齢求職者給付金』が受給できるのです」

FPは「失業給付金(基本手当)」と「高年齢求職者給付金」について説明をはじめました。

64歳11ヵ月で退職した場合に受給可能な給付金

失業給付金とは、雇用保険の被保険者が定年や倒産、契約期間満了により離職した場合に、再就職のサポートのために支給されるものです。これにより、失業中も金銭的な不安を抱えることなく新しい仕事を探すことができます。

支給要件は下記のとおりです。

<支給要件>

1.ハローワークに行って求職の申し込みを行い、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就業できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にあること。

2.離職の日以前2年前に、被保険者期間が通算して12ヵ月以上あること。

■支給期間

なお、受給できる日数は、離職日における年齢、雇用保険の被保険者であった期間および離職の理由などによって、90日~360日のあいだでそれぞれ決定されます。退職理由が自己都合の場合は最長150日、会社都合の場合には最長360日受給可能です。

支給期間は原則、離職した日の翌日から約1年間ですが、その間に病気、けが、妊娠、出産、育児等の理由により引き続き30日以上働くことができなくなったときは、その働くことができなくなった日数分のみ受給期間を延長することができます。

■支給額

雇用保険で受給できる1日あたりの金額を「基本手当日額」といいます。

この「基本手当」は原則、賃金日額のおよそ50%~80%(60歳~64歳は45~80%)となっており、賃金の低い人ほど割合が高くなります。

なお、賃金日額の計算式は下記のとおりです。

賃金日額=離職した日の直近6ヵ月に毎月決まって支払われた賃金(賞与は除く)の合計÷180

基本手当日額は年齢区分ごとにその上限が定められており、現在は[図表1]のようになっています。

[図表1]基本手当日額の計算方法 出典:厚生労働省雇用保険法改正リーフ「雇用保険の基本手当(失業給付)を受給される皆さまへ」

65歳で退職した場合に受給可能な給付金

「高年齢求職者給付金」とは、65歳以上の「高年齢被保険者」が失業した場合に、被保険者であった期間に応じて基本手当の30日分または50日分に相当する高年齢求職者給付が支給されるというものです。

受給するには、居住地を管轄するハローワークに行って求職の申し込みをしたうえ、「高年齢受給資格」の決定を受けなければなりません。加えて、高年齢被保険者であることのほか、下記の要件を満たす必要があります。

1.離職により資格の確認を受けたこと。

2.労働の意思及び能力があるにもかかわらず、職業に就くことができない状態にあること。

3.算定対象期間(原則は離職前1年間)に被保険者期間が通算して6ヵ月以上あること。

高年齢求職者給付金は失業認定を行った日に支給が決定されます。失業認定は一般の受給資格者と異なり1回限りです。

また、金額は、被保険者期間として計算された離職前の6ヵ月間に支払われた賃金をもとに計算されます。被保険者期間が「1年以上」か「1年未満」かによって、下記のように異なります。

[図表2]高年齢求職者給付金の金額 出所:筆者が作成

タカシさんはどっちがおトク?

では、タカシさんが64歳11ヵ月で退職し「失業給付金(基本手当)」を受給した場合と、65歳で退職し「高年齢求職者給付金」を受給した場合とでは、どちらの給付金を受給したほうがおトクになるのでしょうか。

64歳11ヵ月で退職して「失業給付金(基本手当)」 を受給した場合

タカシさんは、新卒から64歳まで継続して働いており、被保険者期間が20年以上あるため、所定給付日数150日分が支給されます。

現在の年収450万円(うち賞与100万円)で計算した場合、概算で賃金日額は1万1,666円、基本手当日額は5,249円となるため、総支給額は基本手当日額5,249円×所定給付日数150日=約78万7,350円となります。

65歳で退職して「高年齢求職者給付金」を受給した場合

タカシさんの被保険者期間は1年以上となるため、65歳で退職した場合、高年齢求職者給付金を所定給付日数の50日分受け取ることができます。

現在の年収450万円(うち賞与100万円)で計算した場合、概算で賃金日額は1万1,666円、基本手当日額が5,249円となるため、総支給額は基本手当日額5,249円×所定給付日数50日=約26万2,450円となります。

つまり、64歳11ヵ月で退職し失業給付金(基本手当)を受け取ったほうが、50万円ほどおトクになりそうです。

また、65歳以降は老齢年金を受け取ることになります。

65歳未満で「特別支給の老齢厚生年金」を受け取る場合、これと失業給付金(基本手当)を同時に受け取ることはできず、失業給付金(基本手当)か年金のどちらかを選択する必要があります。

しかし、64歳11ヵ月で退職をすると、失業給付金(基本手当)と老齢年金の両方を受け取ることができます。

こうして、「失業給付金(基本手当)」と「高年齢求職者給付金」について説明を受けたタカシさんは、「たった1ヵ月で、こんなにもらえる金額が違うのですね。いまの仕事は好きだし会社にも恩は感じていますが、65歳からもらえるお金がここまで違うのであれば、さすがに気持ちも変わりますね(笑)。妻の言うとおり、64歳11ヵ月で退職しようと思います」と、定年前に退職することを決意された様子でした。

定年前に対象となる制度は、それぞれ支給限度額が定められています。自分はなにが該当するのか、どの制度が利用できるのかなど、迷ったときは専門家に相談し、会社の退職制度や公的な制度をよく理解したうえで総合的に判断しましょう。

工藤 由美子
FP Office株式会社
ファイナンシャルプランナー

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