打者は山田哲人、投手はジョンソン セイバー目線で選ぶ7月のセ月間MVP

ヤクルト・山田哲人【写真:荒川祐史】

広島の勢いが加速、優勝争いはほぼ決した感も

 相変わらず2位から6位までは大混戦ですが、優勝戦線は大勢が見えてきたセ・リーグ。7月のチーム成績は以下の通りです。

広島 12勝5敗
OPS.813 本塁打27 防御率3.06

巨人 12勝11敗
OPS.709 本塁打25 防御率4.03

中日 10勝11敗
OPS.708 本塁打15 防御率4.03

ヤクルト 9勝10敗
OPS.766 本塁打18 防御率3.99

DeNA 9勝11敗
OPS.727 本塁打26 防御率5.64

阪神 6勝10敗
OPS.705 本塁打11 防御率5.17

 交流戦が明け、同一リーグの対戦チームに対して絶対的な自信を持つ広島が7月に入り加速。大きな貯金を作り、優勝へのカウントダウンも間近というところまで来ました。

 月間MVPの選出基準は原則NPB公式記録が用いられます。ただ打点や勝利数といった公式記録はセイバーメトリクスでは、個人の能力を如実に反映する指標と扱わないので、個人の選手がどれだけチームに貢献したかを示す指標による評価は、公式のMVPとは異なることもあることでしょう。

 そこで、セイバーメトリクスの指標による7月の月間MVP選出を試みます。

盗塁数以上に盗塁成功率の高さでチームに貢献する山田

◯7月月間MVP セ・リーグ打者部門

山田哲人(東京ヤクルトスワローズ)

OPS1.298 wOBA0.546 打率.425 出塁率.517 長打率.781 RC2716.36 盗塁8(すべてリーグ1位) 本塁打7(リーグ3位)

 候補選手9名の中でも、今月は山田哲人の成績が群を抜いていました。

 安打数では桑原将志(32安打)、本塁打数ではソト(9本)とDeNAの両選手がトップに立ちましたが、山田はどちらもそれに匹敵する成績を残しています。

 出塁力、長打力ともに兼ね備えている山田ですが、今月は盗塁が8と足で荒稼ぎ。30盗塁どころか、40盗塁も視野に入ってきました。

 盗塁数もすごいのですが、それ以上に特筆すべきは盗塁成功率です。今月は9回試みて8回成功、88.9%の成功率ですが、シーズントータルでは92.9%(26/28)。失敗はわずか2回しかないのです。盗塁の得点価値は0.17、失敗による損失が0.4で、そこから盗塁による特典価値を示すwSBを算出すると3.7となり、盗塁によって約4点分の価値をチームにもたらしている計算になります。

 その中で最も自信を持つのが帰塁技術。牽制刺が少ないことも、成功率向上に寄与しているのです。

 史上初、通算3回目のトリプルスリーも視野に入ってきた山田哲人を7月のセ・リーグ打者部門MVPに推挙します。

 なお、7月の次点は、6月の月間MVPに推挙した丸佳浩(広島)。月間の打率は.311ですが、出塁率は.462と高水準をキープ。しかしシーズン出塁率が.491なので、これを低いと感じてしまうところが不思議なところです。なお、1984年に公式記録となってからの最高出塁率は

セ・リーグ  バース .481 (1986年)
パ・リーグ 落合博満 .487 (1986年)

ですので、この記録更新にも期待がかかります。

広島のクリス・ジョンソン【写真:荒川祐史】

ウィーランドの候補入りは打者成績も勘案?

◯7月月間MVP セ・リーグ投手部門

ジョンソン(広島東洋カープ)

登板4 4勝0敗 防御率2.03
FIP2.11 奪三振27 被本塁打0 RSAA5.57(すべてリーグ1位)
奪三振率9.11 WHIP1.13 被打率.216 QS率75%

 候補選手は7名ですが、そのうち6人が外国人投手。日本でも稀な酷暑の中で優秀な成績を収めることのできる優秀助っ人投手が候補に挙がっています。そんな中、DeNAのウィーランドが候補に挙がっているのですが、7月の成績は2勝はしているものの

防御率 5.84 WHIP1.50 被打率.284 QS率25%

と投手としての成績は芳しいものではありませんでした。しかし

打率.375 本塁打1 出塁率.500 長打率.875 OPS1.375

 と、規定打席未満ではありますが、OPSでは同僚の桑原(1.128)やソト(1.008)を凌ぐ打撃成績を残しています。もしかしたらこの成績も加味されてのリストアップだったのではないでしょうか。

月間4勝、セイバーメトリクス数値も優秀なジョンソンが最右翼

 さて、7月のセ・リーグ投手成績をセイバーメトリクスの視点で評価してみましょう。

 7月は防御率1点台が3人います。その中でも小笠原慎之介(中日)は日本人投手で唯一月間MVP候補に挙がっている選手なのですが、セイバーの指標ではそこまで芳しいものではありません。与四死球16、被本塁打2とFIPを構成する2要素がかなり悪い成績になっています。WHIPも1.22と凡庸なのですが、7月のLOB%(残塁率)が89.7%と高い数値となっています。ランナーは許すものの後続を断って得点を与えていない様子が伺えます。

 6月の月間MVPに推挙した小川泰弘(ヤクルト)は7月も4試合に先発登板してすべてでQSを達成しています。これで8連続QS達成です。ただ7月の援護率が1.86と打線の援護に恵まれず1勝止まりでした。

 ガルシアは7月18日の広島戦で自身初となるシーズン10勝を8回1安打無失点で達成。また7月31日の阪神でも勝利し11勝目。ナゴヤドームで9勝、東京ドームで1勝とドーム球場で圧倒的な勝ちを稼いでいます。

 防御率1点台の3人の投手を抑えて7月のセ・リーグ投手部門MVPには、打線の援護にも恵まれましたが、月間4勝、被本塁打0、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す指標RSAAが5.57と広島の月間首位、そしてリーグ制覇への足固めに貢献する安定のピッチングを披露したジョンソンを推挙します。(鳥越規央 / Norio Torigoe)

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ(2012年、2013年)などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
文化放送「ライオンズナイター(Lプロ)」出演
千葉ロッテマリーンズ「データで楽しむ野球観戦」イベント開催中
トークイベント「セイバー語リクスナイト」7月19日開催

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