Modulo Drago CORSE、新車のNSX GT3購入を決断。鈴鹿10時間&SGT終盤戦に参戦へ

 8月4日、富士スピードウェイで行われていたスーパーGT第5戦の公式練習で、ZENT CERUMO LC500にヒットされる形でクラッシュしてしまったModulo KENWOOD NSX GT3。車両のダメージが大きく、5日の決勝には出場できなかったばかりか、8月24〜26日に開催される鈴鹿10時間への出場も危ぶまれていたが、Modulo Drago CORSEとチーム代表の道上龍は8月8日、新車を購入しての鈴鹿10時間、スーパーGT継続参戦を決断したと発表した。

 スーパーGT第5戦富士の公式練習で起きたこのクラッシュは、突然のトラブルにより姿勢を乱したZENT CERUMO LC500が、ちょうどピットアウトしTGRコーナーにターンインしようとしたModulo KENWOOD NSX GT3に激突したもの。ZENT CERUMO LC500をドライブしていた立川祐路は左足の打撲を負い、一方Modulo KENWOOD NSX GT3の道上は、腰の痛みを訴えたものの、すぐにピットへ戻っていた。

 ただ道上はその日の夕刻に痛みが出たことから、チームメイトの大津弘樹が運転し、御殿場市内の虎ノ門病院へ向かいレントゲンを撮った。その後も「痛いですよ。ずっと腫れてます」と8月7日に取材した時点で、まだ痛みを引きずっている状態だ。

 とはいえ大怪我にならなかったのは不幸中の幸いだったが、大きなダメージを負ってしまったのはModulo KENWOOD NSX GT3だ。リヤからの激突によりフレームにダメージを負ってしまい、修復は不可能と判断。決勝でその姿は見ることができなかった。

 一方で、ZENT CERUMO LC500はチームが早朝5時30分までかかって修復を終え、決勝への出走、さらにポイント獲得も果たした。ドライバーふたりやチームスタッフも「Modulo Drago CORSEには申し訳ない」と口々に語っていたが、修復できるのならば、レースに出場するのは当然のことだ。一方で道上も「立川選手も僕に当たらなければ、もっと大きな事故になっていたかもしれない」と気遣っていたが、「当事者である2台を取り巻く環境があまりにも違いすぎて、チームも絶望の底に沈んでいました」と振り返った。

 2台で修復できるか、できないかの違いが出たのは、GT500車両とFIA-GT3車両の仕組みの違いが大きい。純粋なレーシングカーであるGT500は、大げさな言い方をすればモノコックが残っていてパーツさえあれば、短時間での修復が可能だ。一方でFIA-GT3車両は、外装やウイング等にはカーボンパーツがふんだんに使われているが、キャビンやフレームまわりは市販車のものを使う。それゆえ、市販の時点でのフレームの優秀さがGT3の走りにも反映されると言われている。

 そんな素性をもつGT3カーだけに、フレームまでダメージが及んでしまっては修復は非常に困難で、市販車で言えば“事故車”の状態だ。治具を使って慎重に直せば直るが、1ヶ月以上がかかってしまうという。当然、8月末の鈴鹿10時間はもちろん、9月の第6戦SUGOも参戦が危うくなってくる。

■「スタッフのため、大津のためにもここで止めるわけにいかない」

 ドライバー、そしてチームオーナーでもある道上は、クラッシュ後「途方に暮れてる時間もないですし、体を痛めているヒマもない」と鈴鹿10時間への対処をチームで検討に入った。近年はレーシングカーにも保険があり、当然その保険は使用するにしろ、鈴鹿10時間に出場するためには、新車のホンダNSX GT3を購入するか、いわゆる“ハコ替え”と呼ばれるフレーム交換しかない。

 富士スピードウェイを訪れていたホンダの山本雅史モータースポーツ部長、また嶋村馨グローバルGT3プログラムマネージャーにも話を聞くことができたが、現在イタリアにあるJASモータースポーツには、新車のNSX GT3が1台あるという。また、鈴鹿10時間向けにパーツ取り用の車両も1台用意される予定だったという。そのためゴーサインが出さえすれば、新車導入は可能だ。

 ただ、「保険が下りたとしても新車を買える費用ではないですし、『もう1台買おう』となっても、鈴鹿10時間、スーパーGTの残りのシーズンの参戦費用を含め、どれだけ赤字になってしまうか、やり繰りしながら考えなければならない」と道上は思い悩んだ。鈴鹿10時間に間に合わせるには、8月8日に発注をかけなければ間に合わないからだ。

 道上は長年ホンダのドライバーを務め、さらにModulo Drago CORSEはホンダの100%出資であるホンダアクセスがサポートしており、“隠れワークス”のように見られがちなところはあるが、Drago CORSE自体は完全にプライベートチームだ。当然、NSX GT3をホンダから買うとしても、資金はチームがまるごと用意しなければならない。ポンとGT3車両を買ってくるオーナーがいるチームも日本には複数存在するが、Modulo Drago CORSEにとって数千万円を追加で用意することは簡単ではない。

 ただ、それでも道上は鈴鹿10時間参戦を決断した。

「鈴鹿10時間には出たいと思っています。10時間は今年からのレースですが、自分としても世界の舞台で、日本のチームがホンダNSX GT3を走らせ、世界の名だたるマシンに戦いを挑むシーンを見せたいですから」と道上は言う。

「僕はドライバーでもありますが、チームオーナーとしても、ここで止める訳にいかないんです。スタッフの生活もありますし、着実に成長している大津のためにも、こんな形で終わらせたくないというのは強く思っています」

 これまで1月末のシェイクダウンからテスト、そして前半4戦をともに戦ってきたシャシーナンバー012のModulo KENWOOD NSX GT3とともに鈴鹿10時間を戦うことはかなわなくなってしまったが、新たなシャシーとともに鈴鹿10時間とシリーズ終盤戦に挑む。

「何より、チームの復活を願うファンの皆さんから多くの励ましの言葉をいただき、どうしてもあきらめるわけにはいきませんでした」と道上は報告のなかで綴った。

「こうしてまたレースができることになり、本当に嬉しく思っています。Modulo Drago CORSEを支えてくださるすべての皆様に感謝致します。そして引き続き熱い応援をよろしくお願い致します」

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