打者は鈴木誠也、投手は菅野…セイバー目線で選出する8月セ月間MVP

広島・鈴木誠也【写真:荒川祐史】

広島が圧倒的強さでリーグ3連覇に向けて快進撃

 広島のリーグ3連覇のカウンドダウンが進む中、2位から6位までは未だ大混戦。全てのチームにクライマックスシリーズのホーム開催の可能性があるセ・リーグ。8月のチーム成績は以下の通りです。

広島 17勝9敗 
OPS.846 本塁打44 防御率4.58
ヤクルト 14勝11敗 
OPS.822 本塁打25 防御率4.56
巨人 13勝13敗 
OPS.740 本塁打31 防御率3.73
阪神 11勝13敗 
OPS.724 本塁打15 防御率4.08
中日 11勝15敗 
OPS.709 本塁打18 防御率3.90
DeNA 10勝15敗 
OPS.773 本塁打34 防御率4.96

 今月も広島が大きな貯金を作り、他球団を大きく引き離しました。8月は酷暑の中で連戦が続いた影響でしょうか、打高投低の数字となっています。

 月間MVPは9月11日に発表されますが、NPBによる月間MVPの候補選手は以下の通りです。
 
○打者部門
鈴木誠也(広島)、松山竜平(広島)、西川龍馬(広島)、糸井嘉男(阪神)、梅野隆太郎(阪神)、宮崎敏郎(DeNA)、ビシエド(中日)、平田良介(中日)、雄平(ヤクルト)、山田哲人(ヤクルト)

○投手部門
大瀬良大地(広島)、小野泰己(阪神)、ドリス(阪神)、今村信貴(巨人)、吉川光夫(巨人)、原樹里(ヤクルト)

長打力が光る鈴木誠也、セ・リーグ月間安打記録樹立のビシエド

 月間MVPの選出基準は原則NPB公式記録が用いられます。ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わないので、個人の選手がどれだけチームに貢献したかを示す指標による評価は、公式のMVPとは異なることもあることでしょう。

 そこで、セイバーメトリクスの指標による8月の月間MVP選出を試みます。

○8月月間MVP セ・リーグ打者部門

鈴木誠也(広島)
OPS 1.385 wOBA 0.573 本塁打12 長打率.869 RC27 17.07(すべてリーグ1位)
打率.414 出塁率.517(リーグ2位) 

 候補選手は10名ですが、NPB公式の月間MVP最有力候補は何と言ってもビシエド(中日)でしょう。月間打率.465、得点圏打率.481もさることながら、月間安打数47は、2013年8月に村田修一(巨人)が記録した46を抜き、セ・リーグ新記録となりました。日本記録であるイチローの48(1996年8月)の更新も期待されましたが、8月最終戦2打席目以降は全て凡退に倒れ、記録更新はなりませんでした。それでも、この記録は高く評価されることでしょう。

 しかし、鈴木誠也も8月の記録は決して引けを取るものではありません。

ビシエド(中日) 
打率.465 安打47 本塁打7 四死球13 出塁率.526 得点圏打率.481

鈴木誠也(広島) 
打率.414 安打41 本塁打12 四死球20 出塁率.517 得点圏打率.379

 さらに、セイバーメトリクスの指標で比較してみましょう。

ビシエド
OPS 1.249 wOBA 0.529 長打率.723 RC27 13.70

鈴木誠也 
OPS 1.385 wOBA 0.573 長打率.869 RC27 17.07

セイバーメトリクスでは、バットや足で稼いだ塁の多さに依存する指標が多いため、単打が47安打中35本が単打のビシエドより、41安打中20本が単打の鈴木誠也の方が高評価となるのです。またRC27が3点以上の開きとなっていますが、この要因として考えられるのは併殺打の差。鈴木誠也が1併殺打だったのに対し、ビシエドは5併殺打ということで、これも大きな差に繋がったのではないでしょうか。

 以上より、8月月間MVPセ・リーグ打者部門は鈴木誠也を推挙します。

 なお、先月も追記しましたが、今月の丸佳浩(広島)の月間出塁率は.480と高水準をキープしており、8月末時点でのシーズン出塁率は.490でした。セ・リーグではバース(阪神)の.481(1986年)、パ・リーグでは落合博満(ロッテ)の.487(1986年)の記録更新にも期待がかかります。

セイバーでは菅野が優位も、NPB公式記録では大瀬良か

○8月月間MVP セ・リーグ投手部門 

菅野智之(巨人)
4登板 2勝0敗 防御率1.50
FIP 1.99 奪三振34 奪三振率10.2 被本塁打1 RSAA 7.74(すべてリーグ1位)
WHIP 1.07 被打率.223 QS率75%
 
 候補選手は6名ですが、公式サイトには「今後の活躍次第で、他の選手が受賞する可能性も十分あります」とありますので、月間登板数18のNPB記録に並んだフランスア(広島)も選考会議の際に名前が挙がる可能性はあるでしょう。ということで、フランスアも含めて、有力候補の成績を見てみましょう。

大瀬良大地(広島)
3勝0敗 防御率1.53 QS率100% 被打率.202 完投0

原樹理(ヤクルト)
3勝0敗 防御率2.83 QS率75% 被打率.217 完封1

菅野智之(巨人)
2勝0敗 防御率1.50 QS率75% 被打率.223 完封2

フランスア(広島)
0勝1敗1S10H 防御率0.51 被打率.164

 NPB公式の月間MVP選考会議はかなり難航することでしょう。2013年5月に月間18登板を記録した益田直也は月間MVPの候補に挙がっていますが、この年の5月以降は全て田中将大(楽天)が受賞するという「マーくん無双」の年でしたので益田は受賞していません。また、1956年9月に記録した稲尾和久の時代には月間MVP表彰自体がありませんので、フランスアのこの記録が月間MVPに値すると考えられるかどうかは定かではありません。

 最多勝で防御率1点台、HQS率、沢村賞式QS率も100%である大瀬良が、広島月間勝率1位であることも鑑みて、公式月間MVPの最有力と考えられるでしょう。

 では、8月のセ・リーグ投手成績をセイバーメトリクスの視点で評価を見てみましょう。

菅野智之 
FIP 1.99 RSAA 7.74 WHIP 1.07 奪三振率10.20 与四死球7 被本塁打1

原樹理 
FIP 2.42 RSAA 6.01 WHIP 0.98 奪三振率8.48 与四死球7 被本塁打1

大瀬良大地 
FIP 3.05 RSAA 4.10 WHIP 0.89 奪三振率8.59 与四死球5 被本塁打3

フランスア 
FIP 3.74 RSAA 1.11 WHIP 1.25 奪三振率9.68 与四死球12 被本塁打1

フランスアのFIPが低評価なのは、与四死球の多さに起因します。また大瀬良は被本塁打3が響いて、FIPが伸びませんでした。

 被本塁打のリスクが高い東京ドームで2完封、FIP、RSAAがリーグ1位という内容のある成績を残した菅野を8月のセ・リーグ投手部門MVPに推挙します。

 なお、シーズン中に先発から救援、そしてまた先発に配置転換という難しいポジションにありながら、8月3勝と結果を残した原樹理も、菅野に引けを取らない好成績であることは特記すべきでしょう。ただ3勝の影には援護率9.93という打線の援護もあることもお忘れなく。(鳥越規央 / Norio Torigoe)

鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、統計学をベースに、テレビ番組の監修や、「AKB48選抜じゃんけん大会」の組み合わせ(2012年、2013年)などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。
文化放送「ライオンズナイター(Lプロ)」出演
千葉ロッテマリーンズ「データで楽しむ野球観戦」イベント開催中

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