先祖の思いを

 テレビのニュースで講演の様子が流れていた。その語り口は、柔らかで温かい。「日本に来てください、と苦手な英語で言ったら、法王は力強く腕をつかんで、イエスと言ってくれたんです」▲ローマ・カトリック教会の前田万葉枢機卿(69)は先ごろ、長崎市の母校での講演でこう語っていた。新上五島町生まれで、亡くなった母は長崎の被爆者だった▲6月、枢機卿という高い地位に起用されたが、これを法王の訪日に向けた「下地づくり」とする見方もある。法王は先日、「来年、訪日したい」とその意向を明らかにし、だんだん訪日が現実味を帯びてきた▲被爆地訪問への期待も高まっている。前田枢機卿は、法王にぜひ来崎してもらい、「長崎で平和アピールをしてほしい」と言っている▲折に触れて枢機卿は、平和や非暴力を訴えてきた。その根っこにはご先祖の生きざまへの思いがあるらしい。9年前、枢機卿がカトリック中央協議会の事務局長だった頃に、話を伺ったことがある。キリシタンがすさまじい迫害を受けた五島・久賀島の「牢屋(ろうや)の窄(さこ)事件」で、曽祖父は長い監禁に耐え抜いた、と▲命懸けで信仰を守った先祖の生きざまを受け継ぎたい。そう語っていたのを思い出す。その姿と、法王の被爆地への「平和の旅」実現に汗を流す姿が、どこか重なる。(徹)

© 株式会社長崎新聞社