「マリア像を撮影するのは、離婚した両親と離れて暮らした幼いころの記憶が絡んでいるから。愛情に飢え、マリア様の優しいまなざしに母の姿を重ねていた」-。
長崎県諫早市西栄田町の写真家、浜辺耕作さん(71)が「集大成」と位置付ける個展を長崎市平和町の浦上キリシタン資料館で開いている。原爆やキリシタンをテーマに、長崎の歴史と自身の記憶を重ねた「ながさきの記憶」シリーズ約30点を展示している。
浜辺さんは1946年長崎市(旧外海町黒崎)で生まれ育った。小学2年生の時に離婚した両親や兄と離れ、祖父母と暮らすことに。クリスチャンではなかったが、近所の黒崎教会が遊び場であり、“居場所”だった。寂しさが込み上げることもあったが、マリア様が静かに見守ってくれているように感じた。当時と変わらぬ風景を捉えた「沈黙の刻」は、日差しを浴びて輝くマリア像が、慈愛に満ちた表情をたたえている。
小学5年のころ、東京で暮らすカメラ好きの父からカメラ「フジペット」をプレゼントしてもらい、愛犬を撮ることから始めた。絵を描くのが好きで、絵心から撮影の構図にもこだわった。カメラを通して父親とつながっているようで手放せなかったという。
社会人になり、撮影も本格化した。自由なテーマで国展や三軌展など中央展で活躍。40代のころ、浦上天主堂の原爆遺物展示室を訪れた際、原爆で倒壊した聖像の頭部などと出合ったことから、長崎の忘れてはならない歴史に目を向けるようになった。その後、「ながさきの記憶」シリーズを発表。会場には、深い悲しみの表情が胸に迫ってくる黒焦げの「被爆マリア」や、世界初の核実験が行われた米国ニューメキシコ州で撮影した燃え盛る太陽が原爆の閃光(せんこう)を連想させる作品も並ぶ。世界がつながっているというイメージから、空を意識した作品が多い。
古里の旧外海町は、遠藤周作の小説「沈黙」の舞台となった地で、キリシタン弾圧の歴史が刻まれている。近年、踏み絵と風景を絡めた作品などを発表した。モノクロ作品にこだわってきたのは、祈りや鎮魂の思いがあるためだという。
50歳の時に心臓、60歳の時に脳の手術を受け、創作活動を休止したこともあったが、現在は精力的に活動し、指導者としても力を注いでいる。これまで撮影してきた場所が「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として世界文化遺産に登録されたことや、集大成の個展がキリシタン資料館で開催できたことも「運命のようで、うれしい限り」と語る。
写真家としての最後のテーマは「ながさきのマリア像100態」。「優しいまなざしや美しい姿にこだわりながら県内各地のマリア像を捉え、その場の空気感とともに伝えたい」と意欲を燃やしている。
同展は11月11日まで。入館無料。月曜休館(月曜祝日の場合は翌日が休館)。