血潮

 40歳を過ぎて、ろくすっぽ仕事もない。冬の谷間にいるような思いで日々を過ごしていた。ある寒い夜、退屈しのぎに懐中電灯を自分の手のひらに当ててみた。血の色が赤く透けて、見とれてしまったと、「アンパンマン」の作者、故やなせたかしさんの回想録にある▲やなせさん作詞の「手のひらを太陽に」という曲はこうして生まれた。〈手のひらを太陽に すかしてみれば まっかに流れる ぼくの血潮(ちしお)〉と。光源に手のひらを透かしたときの赤い色は、生きている証しかもしれない▲体を潮のように流れる血を血潮と言うが、熱血、情熱の意味でも使う。ひたすら、ひたむきに目指すところへ駆ける人を見ると、この血潮という言葉がふと浮かぶ▲3日間にわたる郡市対抗県下一周駅伝大会はきのうゴールした。病気のため強豪の実業団を辞め、市民ランナーとして走り続ける男性選手(22)がいて、4人の子育て中という女性選手(34)がいた。紙面では連日、胸に熱いものを抱いて走る選手の姿をお伝えしてきた▲これから疾走する選手たちもいる。サッカーのV・ファーレン長崎はおとといの決起集会で、勝利を誓って心を一つにした。24日、リーグ戦が開幕する▲J1復帰という目指すところへ、チームはひたすら駆けていく。血潮の一語がまた浮かぶ。(徹)

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