継承と警鐘 6.3大火砕流から28年(中)災害弱者 防災組織の強化 急務

地域防災計画の改正を決めた会合。避難所の迅速な開設に取り組む=4月24日、島原市の有明総合文化会館

 「住民も自分の身は自分で守るという意識を持つ必要がある」。島原市安中地区町内会連絡協議会の阿南達也会長(81)は指摘する。同地区は雲仙・普賢岳噴火災害で甚大な被害を受けた水無川流域。あの惨禍を繰り返さない-。そんな思いで住民たちは毎年、自主的に避難訓練に取り組んでいるが、関係者の中には不安も残る。
 市市民窓口サービス課によると、市内の65歳以上の高齢化率は34.25%(3月末時点)。43人の犠牲者を出した大火砕流直前の1991年3月(16.17%)に比べ、18ポイントも上昇した。市担当者は「避難の際に支援が必要な人が今後、市内全域でさらに増えてくる」と危機感を募らせる。
 逆に災害対応に当たる市の職員数は約360人(4月現在)で、この約30年間で約100人減少。旧南高有明町との合併で行政区域も広がり、「職員だけでは対応できないケースも出てくるだろう。災害時の避難は住民同士の協力が欠かせない」(市担当者)。
 市は本年度から町内会単位でつくる自主防災会の強化に着手。本来は専門的な知識や経験を有する消防、警察経験者らを代表に据えた地域防災組織の構築が目的だった。しかし現状は、なり手不足で自治会長らが兼務し、活動が形骸化するケースも少なくなかった。
 こうした現状を改善していくため、まず安中地区に働き掛けて、33の自主防災会長に警察OBや消防OBを専任。平時は災害情報の住民への伝達や避難訓練の計画づくりなどに努め、災害時は避難誘導の中心的役割を担ってもらうことにした。
 安中地区全体の自主防災会長を務める横田哲夫さん(69)は「命を守るためには地域が率先して災害に備える必要がある。行政に頼らない自主組織として強化を図りたい」と力を込める。
 一方、市はサポート体制を強化する。本年度、避難所開設の迅速化に向けて地域防災計画を見直した。きっかけは2016年の熊本地震。島原市でも当時、震度5弱を記録し、約100人が自主避難したが、最も早く開設した避難所でも約1時間10分後だった。市内全域の避難所の開設が終了したのは2時間後。この反省を踏まえ、震度5以上を観測した場合には即座に開設するように規定し、避難所ごとに担当職員を割り当てた。
 市担当者は「市民には自主的な活動を促しつつ、行政もしっかり支えていきたい」と語る。

© 株式会社長崎新聞社