衝撃「開門せず」 諌干最高裁決定(上)<司法のメッセージ> 立場を示して弁論へ

最高裁が初めて「非開門」の判断を示した決定を受け、記者会見する開門差し止め派原告や弁護団ら=長崎県庁

 国営諫早湾干拓事業の潮受け堤防排水門の開門を巡る2件の訴訟で、最高裁は26日、開門を求める漁業者側の上告を退けた。堤防閉め切りから22年、最高裁が初めて確定させた「非開門」の判断。地域が二分され、翻弄(ほんろう)されてきた関係者の見方と今後への影響を追った。

 結末は不意に訪れた。「上告理由に当たらない」-。27日夕に流された開門差し止め派弁護団のファクス。開門派漁業者による開門請求訴訟と、開門差し止め長崎地裁判決に対する漁業者の独立当事者参加申し立てが、最高裁で棄却されたという内容だった。両訴訟の結論を注視していた関係者の間に衝撃が走った。

 一夜明けた28日午前、開門差し止め派の原告らや弁護団が長崎県庁で会見。提訴から8年、一様に安堵(あんど)した表情で姿を現した。

 中央干拓地に入植する松山哲治さん(44)は「(開門すれば)地下水から塩水が上がり、作付けできなくなる恐れがあり、ずっと不安だった」と明かした。諫早市森山町の農業者、平山学さん(66)は「施設園芸に意欲的な若い人もおり、安心して規模拡大もできるのではないか」と期待を寄せた。

 諫早湾防災干拓事業推進連絡本部の栗林英雄本部長(85)は「市民の安心、安全が守られ、頂が見えてきた」と述べ、堤防閉め切りによる防災効果を強調。「最高裁が『開門を認めない』と判断し、開門の是非を巡る問題に終止符を打った」。山下俊夫弁護団長は最高裁の判断を歓迎した。

 開門差し止め訴訟は2011年、干拓農地の営農者や周辺住民が提訴。「3年猶予、5年間開放」を命じた福岡高裁確定判決を受け、国が開門を準備する中、開門による塩害や災害を懸念し、阻止に動いた。併せて申し立てた開門差し止め仮処分決定で開門確定判決に“待った”をかけた。「開門」と「開門差し止め」の司法判断のねじれが生じ、国は開門確定判決で定められた13年12月からの開門を見送った。

 一方、開門派も加わった同訴訟の和解協議が17年3月に決裂。長崎地裁は同4月、開門を差し止め、国は控訴を見送った。開門派漁業者が控訴を求め、独立当事者参加を申し立てたが、福岡高裁は18年3月に却下、漁業者側が上告していた。

 もう一件の開門請求訴訟は、諫早市小長井町と佐賀県太良町の漁業者が08年、「干拓事業の影響で漁業被害が生じた」として提訴。一、二審とも漁業者が敗訴し、15年に上告してから4年近く宙に浮いていた。

 漁業者側の敗訴が確定したのを受け、山下団長は会見で「司法的にほぼ決着したことは感慨深く(不安を抱えてきた)原告の熱意に感謝する」とねぎらった。

 開門を巡り、最高裁に係属する訴訟は残り1件。国が開門派漁業者に開門を強制しないよう求めた請求異議訴訟だ。福岡高裁は昨年7月、国の主張を認め、開門確定判決を「無効」としたが、最高裁は7月26日に弁論を開き、高裁判決見直しの可能性が指摘される。

 差し止め派弁護団の西村広平弁護士は、今回の最高裁決定の意味を読み解く。「『開門しない』という立場を示した上で、弁論を迎えるというメッセージ」。今後、最高裁が審理を高裁に差し戻し、漁業者と国との和解協議を促す可能性を示唆したが、両者が折り合う気配はない。

© 株式会社長崎新聞社