【津川哲夫の私的F1メカ】未だに手書きが残るF1パーツの製造番号ステッカー

 職業柄か、何気なくピットを歩いていると結構、F1らしさ、F1ならではを感じるものに遭遇する。今回は話題のフロントウイング……ではなくて、そのフロントウイングがどの仕様かを記すステッカーに注目してみたい。F1のステッカーは各部の調整や重量など、事細かに記してあるのだ。

 ハースF1チームの写真のステッカーにはマウントシムの厚みや総重量、バラスト重量やウイング形状などが細かく記されている。特にフロントウイングは頻繁に仕様が変わるので、エンジニアリングからの組立リストに添って、驚くほど多くのエレメントが組みつけられるのだ。

 そのチェック項目の欄の記入は手書きというのが何とも人間的で嬉しいところ。チームによってはこう言った現場でのチェックリストまで、きれいにプリントアウトされているチームもある。

 今のF1マシンの開発では手書きで行う余地はほとんどない状況で、表記される記号もプリントが基本でF1からどんどん人間味が亡くなりつつあるのだが、この手書きステッカーにはちょっと癒されてしまった。とは言え、手書きであろうとプリントであろうと、この細かな管理こそが現在のF1の姿なのだ。

 最近のF1パーツには製品番号やデータやバーコードなどがパーツその物に貼られるのではなく、埋め込まれていたり、刻まれていたり、一度付けられた製造番号やデータは簡単には変更ができないようになっている。パーツ管理やライフィング(使用可能期間)の正確な管理には、この番号の欠落はあり得ないことなのだ。

 また、多くのパーツがFIAへの登録パーツであり、これがバーコードで管理され、このバーコードでパーツのアイデンティティが証明されているのだ。こう言った管理が徹底しているからこそ世界を跨いでのロジスティックスの効率化に加え、近代F1マシンからメカニカルトラブルがものすごい速度で減少しているのだ。

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