史上最高値の目前まで急騰、「インド株」の上昇基調は本物か

7月以降、軟調に推移していたインドSENSEX指数は、9月20日に前日比5.3%高の3万8,014ポイント、週明け23日にも同2.8%高の3万9,090ポイントと急騰しました。背景にあるのが、9月20日にインド政府が発表した景気刺激策の第4弾です。

その内容は、法人税を従来の30%から22%へ引き下げるというもの。新しい実効税率は約25.2%となり、今年4月にさかのぼって適用されます。政府が景気刺激と投資促進の双方の効果を狙う減税効果は約2.2兆円。中でも、自動車や金融、資本財、日用品、石油・ガスなどへの恩恵が期待されます。

追い風を受けた形のインド株市場。この先はどのようなシナリオをたどりそうなのか、現地の政治・経済動向を検証してみます。


落ち込みが続いていたインド経済

2014年に誕生したモディ現政権は(1)財・サービス税(GST)の導入、(2)雇用改革、(3)土地収用の「3大改革」を掲げています。この構造改革こそがインドの高成長の源泉となり、中期的には7~8%の成長が予想されています。

とはいえ、3大改革のうち、GSTは2017年7月に導入されましたが、雇用改革につながる「メーク・イン・インディア」(製造業の活性化と雇用創出を目指す製造業振興策)はやや停滞しています。

また、8月30日に発表された4~6月期実質GDP(国内総生産)は前年比+5.0%と、市場予想を下回り、前期(同+5.8%)から鈍化しました。

規制の導入などで自動車販売が低迷したほか、選挙前の様子見姿勢から企業が投資を手控えたこと、ノンバンクの信用危機を背景に銀行が融資に慎重な姿勢を示したことなどによって、インドの景気は予想外に落ち込んでしまったもようです。

矢継ぎ早の景気刺激策の中身

こうした中、立て続けに打ち出されているのが、金融政策面からの下支え策です。インド準備銀行(中央銀行)はすでに今年2月以降、4月、6月、8月の計4回利下げを行いました。

1~3回目の利下げ幅は0.25%でしたが、4回目となる8月の利下げは0.35%と、市場予想を上回る水準。今後は、累積的な利下げ効果が発揮され、景気を下支えすると期待されます。

さらに、政府は8月23日以降、自動車や住宅購入、輸出のテコ入れ策などの景気刺激策も矢継ぎ早に発表しました。

具体的には、第1弾では公営銀行に対して7,000億ルピーの資本注入をするほか、2020年3月末までに購入した車両の減価償却率を引き上げるなどの自動車購入支援策も公表しました。

この後も、第2弾(8月28日)として海外直接投資(FDI)の規制緩和、第3弾(9月14日)として中低所得層向けの住宅整備事業の振興や輸出の拡大に向けた各種施策、第4弾(9月20日)として法人税率の30%から22%への引き下げを、それぞれ発表しています。

自動車販売の促進へ大盤振る舞い

中でも注目されるのが、自動車販売のテコ入れ策です。ノンバンクの信用危機を背景に、自動車ローンの貸し出しが厳しくなる中、政府が今年4月に導入した新たな安全基準や、来年4月に予定する新排ガス規制「バーラト・ステージ(BS)6」が車両価格を押し上げ、販売不振を招いてきました。

この対応策として、政府は車両登録料の引き上げを来年6月まで延期するほか、来年3月末までに購入した車両の減価償却率を15%から30%に引き上げました。現在販売中の「BS4」適合車は、来年3月末までに購入すれば、登録期間中は4月以降も走行できる方針へと変更。さらに銀行に対して、自動車融資金利を政策金利と連動させることを要請しました。

自動車部品製造協会は「自動車販売の促進につながる」との見方を示しています。同協会は自動車販売の振興に向け、GSTの税率28%を一律18%へ引き下げる必要性にも言及し、引き続き政府に要請していく姿勢です。

政府はこのほか、電気自動車(EV)の普及に向けた補助金交付計画(10年間で4,000億ルピー)や、100兆ルピーのインフラ投資の実行計画なども検討しているもようです。

脱・中国の受け皿になれるか

その他の政策で注目すべきは、公営銀行への資本注入です。昨秋に銀行の信用不安が広がった時も、資本注入策の出動効果が発揮されたことからみて、今回も銀行の貸し出し姿勢の緩和をもたらし、企業投資の回復を導くとみられています。

また、株式市場に関しては、外国人投資家への追加課税案が取り下げられたことは好材料です。7月5日に発表された新年度予算案に同課税案が盛り込まれて以来、海外投資家の資金流出はインド株の調整要因の1つとして働いていましたが、同資金が再び流入すると期待されます。

さらに、FDIの規制緩和の対象には新たに受託生産も含まれており、法人税減税と相まって海外からの投資の増加につながる可能性が高いでしょう。全般的な法人税の引き下げ(約30%から約25.2%へ)に加えて、製造業の場合、10月1日以降に設立した企業は、2023年3月末までの生産開始などを条件に実効税率が約17%に軽減される優遇策を享受できることになりました。

折しも米中貿易摩擦の長期化観測の下で、製造業企業が中国から生産拠点を移管する動きは顕在化し始めており、インドはその移転先として有望視されています。モディ政権が掲げる「メーク・イン・インディア」加速への期待が高まります。

今後のインド株を見通すと、法人税減税による企業業績の改善はいったん株価に織り込まれたものの、一連の景気刺激策や金融緩和によってインド経済が最悪期を脱出し回復に向かうことに、海外企業による投資の拡大観測が加わり、インド株は一段高を目指していくと予想しています。

<文:シニアストラテジスト 山田雪乃>

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