球団経営と企業経営は「全く一緒」 ロッテ河合オーナー代行が語る「経営論」

ロッテ・河合克美オーナー代行兼球団社長【写真:佐藤直子】

「Full-Count」単独インタで語る優勝にかける思い・第2回

 10年ぶりの日本一を目指す千葉ロッテマリーンズは現在、沖縄県石垣島で春季キャンプの真っ最中。オフにはフリーエージェント(FA)など積極的に戦力を補強し、順天堂大医学部と提携するなどメディカル体制も強化したチームは、シーズンに向けて順調な滑り出しを見せている。

 リーグ優勝はもちろん、2010年以来となる日本シリーズ優勝に強い思いを寄せる今季。就任3年目の井口資仁監督率いるチームを全面バックアップしようと構えるのが、河合克美オーナー代行兼球団社長だ。昨年12月1日に山室晋也氏から球団社長職を引き継いだ河合オーナー代行が「Full-Count」の単独インタビューに応じ、自身と球団の関わり、チーム経営と企業経営の相似点、今季優勝にかける思いなどを熱く語った。

 全3回シリーズの第2回は、チーム経営と企業経営の共通点、リアルな体験が持つパワーについて語る。

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 ロッテが最後に日本一に輝いた2010年から、早くも10年が経とうとしている。リーグ3位でクライマックスシリーズ(CS)に出場すると、ファーストステージで西武に2連勝、ファイナルステージはソフトバンクに王手を掛けられながら、破竹の3連勝で突破。そして日本シリーズでは中日を4勝2敗1分で退け、5年ぶりの日本一となった。リーグ3位からの快進撃は「下剋上」と呼ばれ、日本列島を大いに沸かせた。

 2004年にロッテグループに入社以来、2度の日本一を経験している河合オーナー代行は、今季こその優勝を待ちわびるファン、千葉県民、ロッテ社員の思いを叶えるべくチーム強化に着手。その根底には「球団経営は車の両輪」という理念がある。

「球団経営は車の両輪で、事業部門でちゃんと利益を出しつつ、チームにもきちっと投資して強いチームにしなければ、上手く回らないわけですよ。事業の試みで一瞬売上げが伸びても、チームが弱かったらファンに愛想を尽かされてしまう。逆に、売上げをチームに投資して、面白い試合をすればファンは来てくれる。それを証明したのが、去年の終盤だったと思います」

 ロッテは昨季、シーズン最終戦までCS出場権をかけ、楽天とリーグ3位を争った。その結果、「シーズン最後の3試合全て、大入り満員になりました。当然売上げも上がるし、グッズも売れる。車の両輪が上手く回るということを、みんなが肌で感じたと思います」と話す。

「ブランディングがしっかりできれば、お客さんは必ず来てくれる」

 プロ野球とはファンの存在に支えられて成り立つもの。チームが強い=魅力があればファンは自然と球場に足を運ぶ。チームが弱ければ=魅力がなければファンに振り向いてもらえないし、経営陣の自己満足では破綻してしまう。こういった球団経営の図式は、企業経営の図式と何ら変わりはないという。

「結局、球団の経営も一般の企業の経営も、経営というところは全く一緒です。私はずっとお菓子のマーケティングをしていましたが、球団に置き換えてみると、チームが商品、お菓子にあたるわけです。お菓子の広告を出す時には、中長期的に作っていくのはブランディング。これは今、広告を出したからすぐに効果が出るというものではなく、先行投資をしながら何年か積み重ねることが大事。最初のうちは効果があるのかないのか分からない。でも、ブランディングがしっかりできれば、プル(pull)型の広告と言いますが、お客さんは必ずそのブランドを買いにきてくれます。だから、マリーンズというチームのブランド価値を上げるには、中長期的にチームを強化しなければいけない。そこに投資して面白い試合をすれば、ファンは必ず見に来てくれます。

 一方で、時には短期での効果を見込むプッシュ(push)型の広告も必要です。たまに、お菓子をセールスしたり、キャンペーンをしたりしますから、最近のウィークデーは観客動員が少ないぞ、となった時は、事業部門でアイディアを出して盛り上げることも大事。その塩梅をみんなで考えながらチームを運営していくのは、ビジネスとしてお菓子を売ることと、何ら変わりはないと思っています」

 チーム強化という点でも、短期的な施策と中長期的な施策を並行して進めることが鍵となる。まずは、シーズン143試合という長丁場を通じて、選手たちが最高のパフォーマンスを出し続けられる環境を整えること。昨年から積極的にトレーニング方法やメディカル体制を見直し、改善することに努めた。その代表例が、順天堂大学医学部との提携だ。

「これまで、チームを支える土台の部分に大きな穴がたくさん空いていたんですね。どこから穴埋めしていくべきか、それは監督、コーチ、球団本部、みんなが同じ方角を向いて納得できている。まず取りかかったのがメディカル部門の充実です。これは今まで全くないに等しかった。順天堂大学医学部附属浦安病院が球場に近いことに加え、『乳酸菌ショコラ』の開発で交流があったので相談してみたら、専門チームで対応しましょうと積極的に言っていただけました。メディカル体制の充実は、FA選手獲得のセールスポイントにもなるし、新入団選手の親御さんも安心させられる。常に優勝争いに絡むチームにするには、こういった土台は大切です」

忘れられない2005年日本S第1戦 「神様が下りてきたと思うくらい幻想的で」

 河合オーナー代行が目指すのは「3年後、5年後に絶えず優勝争いをするチーム」を作ることだ。「井口監督が非常に引きが強い」と絶賛するように、2018年ドラフトでは藤原恭大、2019年ドラフトでは佐々木朗希と、複数球団が競合した目玉選手を1位で獲得。3年目の安田尚憲も含め、若手には「将来のスター候補がいっぱいいる」。彼らが1軍の主力となる3年後、5年後に向けて、「チームの土台を他球団と戦える高さまで積み上げながら、その間に若手を育成して本当に強いチームを作る」ためにバックアップを惜しまない。

 実際に球場へ足を運び、ファンにロッテの野球をリアルな体験として感じてほしい。この河合オーナー代行の願いは、自身の体験に基づいている。

「リアルで見るスポーツコンテンツの強さは、ラグビーワールドカップでも証明されました。やっぱりファンは、その場で同じ空気を吸いたい。一度体感してしまった人は、あの興奮を忘れられないんですよ。私も2005年日本シリーズ第1戦のある場面が、ずっと頭に残っています。マリンスタジアムの辺りは10月になると霧が発生するんですよ。球場を丸く照らすライトの中にパーッと霧が下りてきて、そこへ7回に里崎(智也)がホームランを打った。あの時の光景は、神様が下りてきた、と思うくらい幻想的で、あのイメージは今でも残っています。絵に描けと言われたら描けるくらい。あの感動を1回知ってしまったら、また味わいたいと思いますよ。あの場にいないと、絶対に感じられないことですから」

 1人でも多くのファンが、球場でかけがえのない瞬間を体験できる。そんな魅力あるチームにするために、今後も強化と整備の手は緩めない。

(第3回に続く)(佐藤直子 / Naoko Sato)

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