老後不安は若者の方が深刻?金融資産を築くよりも今すべき大切なこと

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、老後不安からか、堅実に資産形成をしている26歳の独身男性。結婚や子どもの予定はないため、この先支出を増やしても問題ないか知りたいといいます。マネーフォワードから生まれたお金の相談窓口『mirai talk』のFP秋山芳生氏がお答えします。

将来のお金に対して、「老後の資金は足りるのか」という漠然とした心配がありましたが色々と計算したところ、ひっ迫した状態ではないと思うようになりました。投資信託の積立てを継続することで、むしろ、この先収入が増えた場合には今よりも支出を増やしてもいいのではないか? と思っています。

そこで、将来に対して見積もりが甘いかどうかや、許容される支出額についてアドバイスをいただけたらと思います。

なお、現在一人暮らしをしており、今後結婚や子どもを作る予定はありません。地方に住んでいるため、車の所有は必須です。現在8年目で5万キロの車を所有しています。医療保険やがん保険に加入していませんが、一定の資金があれば加入する必要はないのではないかと考えています。

貯蓄の代わりとして、ロボアドバイザーに毎月3万円とボーナス時に50万円×2回、積立てています(年間136万円)。年利5%前後で落ち着いています。年収が増えた場合、積立額を増やすことも検討しています。2~3日あれば出金可能です。

<将来の見込年収>

30代の見込年収:640万

40代の見込年収:740万

50代の見込年収:780万

60〜65歳の年収:330万(嘱託再雇用)

<想定している老後資産>

・退職金:1700万円見込み

・年金支給額(ねんきんネットで今の年収で試算):65歳190万円弱、66歳以降205万円

・企業型確定拠出年金:現在14万円

<相談者プロフィール>

・男性、26歳、未婚

・職業:会社員

・居住形態:賃貸(一人暮らし)

・毎月の手取り金額:23万円

・年間の手取りボーナス額:150万円

・毎月の世帯の支出目安:16万円

【支出の内訳】

・住居費:5.4万円

・食費:3.5万円

・水道光熱費:0.8万円

・教育費:なし

・保険料:なし

・通信費:0.6万円

・車両費:0.5万円

・お小遣い:3万円

・その他:2万円(日用品など)

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:貯蓄4万円、投資3万円

・ボーナスからの貯蓄額:貯蓄20万円、投資100万円

・現在の貯蓄総額:200万円

・現在の投資総額:ロボアド530万円、自社株150万円程度(給与天引き)、株式100万円(長期保有目的)

・現在の負債総額:なし


秋山:ご相談ありがとうございます。マネーフォワードのファイナンシャルプランナー秋山芳生です。現在26歳で、老後にむけた資産形成をしながら、今の生活の中でもっと支出を増やせるかというご相談ですね。

老後への不安から、今を犠牲にしていないか?

現在26歳で、毎月23万円の手取りとボーナスで150万円ほどの収入がありますが、資産合計930万円を作れているのは非常に貯められている思います。また年金を計算したり、退職金の想定をしていたりと、老後に向けた意識が非常に高いように思います。ちゃんと貯蓄し投資にまわすお金のコントロール力は非常に高くいらっしゃるのではないでしょうか。

一方、お金の使い方として「今を充実させることはできていますか?」と聞かれるとどうでしょうか。

年金不安、老後不安は特に若者のほうが切実に考えていて、生活を切り詰めながら貯めたり投資にまわしている方が多いように感じますが、お金は使うものでもあります。たとえば20代の海外旅行で得られる経験と、80代になってから海外旅行で得られる経験では、体力的にも精神的にもやれることが異なってきます。そして経験したことを活かして新たなチャレンジをするということも、年齢によってできることが異なってきます。

もし、同じ金額がかかるのであれば若いうちに使うことで、より費用対効果の高い使い方ができたり、自己投資になって大きなリターンが得られることもありますよね。現在26歳、「今後結婚や子どもを作る予定はありません」とのことですが、特別な理由がないのであれば将来いろいろな可能性があると考えていただければと思います。

ロボアドバイザーのお得な使い方とは?

家計をみると、食費は仕事をしながらの一人暮らしであれば3.5万円は妥当だと思いますし、光熱費や通信費も問題ないと思います。保険についても、死亡保険は配偶者や子どもがいなければ必要ないですし、また医療保険も将来にわたって現金で100万円ほど蓄えとしてキープできれば加入する必要はないでしょう。

投資については、現在会社の企業型確定拠出年金制度を活用されているようですが、金額が少ないのは拠出額が少ないからでしょうか? または始められたばかりだからでしょうか? もし拠出額が少ないようでしたら、増額することで控除額を増やし税制優遇のメリットを最大化することができるかもしれません。

またロボアドバイザーへの投資比率が大きいのも気になります。ロボアドバイザーはETF(上場投資信託)を中心に世界分散のポートフォリオを自動で組み上げてくれる非常に便利なサービスであることが多いですが、、デメリットとして税制優遇を受けられないことと、信託報酬などの手数料が1%前後発生し割高なものが多いことがあげられます。

ロボアドバイザーのお得な使い方としては、投資のプロや金融工学のプロがどのようなポートフォリオを組んでいるのか、どのような商品を買っているのか、その商品はどのようなものに投資しているのかを勉強することです。一見ロボアドバイザーというと、頻繁にロボットが投資商品を売り買いしてポジションを変えているのかと思ってしまいますが、実際は同じ商品を長期保有していることが多いのです。一度ポートフォリオの組み方を知ってしまえば、わざわざ高い手数料(信託報酬)を払うメリットは少なくなるでしょう。

どちらにしても、まずは長期・分散・積立という投資の本質を学んだ上で、税制優遇制度である「つみたてNISA」を活用しきることを考えてはいかがでしょうか?

僅差でも、信託報酬や税金を侮るなかれ

信託報酬や税金について「大したことはないだろう」と高を括ると痛い目に合うことがあります。平均利回り5%の複利運用ができたとしても、信託報酬が1%だと4%の複利運用になってしまうのです。

ここで、手数料や税制優遇の有無をもとに試算をしながら比べてみたいと思います。

たとえば、20年間、5%の複利運用で3万円を毎月ロボアドバイザーで積立てた場合、仕上がりの資産は1233万1010円となり、そのうち運用益は513万1010円です。ここから1%の信託報酬を払って、平均利回りが4%になった場合は、20年後に1100万3239円の資産となり、その差は100万円以上になります。そして運用益は380万3239円です。この運用益には20.315%の税金が発生しますので、実際の利益は303万611円まで少なくなります。

では、次につみたてNISAでの運用の場合で見てみたいと思います。

もちろん、つみたてNISAで投資信託を選んだ場合も信託報酬は発生しますが、最近では信託報酬が非常に少ない商品も多く、信託報酬を平均0.2%程度に抑えながらポートフォリオを組んでロボアドバイザーと同様のグローバル分散投資をすることも可能です。

上記と同条件で、5%の複利運用から信託報酬分0.2%を引き、4.8%で複利運用ができた場合は、20年後に1205万251円の資産になり、そのうち運用益は485万251円となります。つみたてNISAの場合は、この運用益が非課税となるので、まるまる手元に残ることになります。ロボアドバイザーと単純に比較すると、182万円という大きな差になってしまいますね。

想定外のことが起こるのが人生、今すべきことは?

いただいた条件で資産推移のシミュレーションを組むと、車を10年に一回100万円で買い替え、また10年に一回引っ越し費用50万円(家具買い替えや敷金礼金などの想定)、老後の介護費用500万円、インフレ率平均0.75%という条件を加えて、100歳までまったく問題なく資産が残ることになります。毎月の支出を3万円増やしても、運用にまわしているボーナスの半分を支出にまわしても、資産は100歳まで問題ありません。

とはいえ、想定外のことが起こるのが人生です。縁起でもない話ですが、今お勤めの会社が終身雇用する保証はないかもしれませし、想定している年収がもらえることや、ボーナスの支給が続くこともないかもしれないのです。

経団連の中西宏明会長やトヨタ自動車の豊田章男社長など、経済界の重鎮が終身雇用の見直しを示唆し、「企業が今後、終身雇用を続けていくのは難しい」という趣旨の内容を述べています。

退職金についても、1700万円を想定されていますが、こちらは今現在、定年を迎えた方の退職金をもとに算出されたのでしょうか? 確定給付年金でない場合、26歳現在で60歳過ぎの退職金を保障している会社はほぼないと言ってよいでしょう。公務員も会社員も全体的に退職金の支給額は減少傾向にあります。

となると、会社に守られるのではなく、自らの価値を向上させて生き抜く力を高めていくということが求められる時代になっていると言えます。

金融資産よりも大切な「無形資産」

「支出を増やしても大丈夫?」という質問をいただいておりますが、どのようにお金を使うかによって意味が大きく変わってくるでしょう。

お金の使い方には「無意味な消費となる浪費」「必要なものに使う消費」「使うことや運用にまわすことで資産を増やす投資」があります。

投資というと金融投資のイメージが強いですが、若い方にとって最強の投資は「自己投資」です。自分で身につけたスキルや知識を活かして価値を生んでいくことができれば、それは誰にも奪うことができない強力な資産です。

お金の使い方が重要な時期でもありますので、さまざまな体験をされてはいかがでしょうか。

“100年時代”という言葉を生んだリンダ・グラットン教授による著書『LIFE SHIFT』には、金融資産などの有形資産の他に無形資産を築いていくことが非常に重要だと書いてあります。

無形資産は3つあり、1つ目は「生産性資産」つまり、仕事のためのスキルや知識、人脈や名声などです。2つ目は「活力資産」で、健康や仲間、家族、愛など生きがいや頑張ろうと思える動機や基盤となる資産です。そして3つ目が「変身資産」で、変化の激しくなる人生の中で新たなステージや環境に対応できる意思や能力のことです。

このあたりを意識しながら、自己投資をして時代や環境が変わっても誰にも奪うことのできな無形資産を築いていくことにお金を使えば、より充足し安心な人生になるのではないかと思います。

時は金なりという言葉がありますが、将来のことに目を向けること以上に「今」を大事にしながらより良い人生にしていただれば幸いです。

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