紙テープ舞う別れ 五島・旅立ちの春 「いつか戻ってきたい」「先生に負けないよう」

「頑張れ」「ありがとう」。感謝やエールの言葉が飛び交う中、船と岸壁をつなぐ紙テープが風に舞った=五島市、福江港

 旅立ちの春。五島市の港は進学や就職、転勤などで新天地へ向かう人と見送る島民で埋め尽くされる。寂しさや不安、そして希望-。さまざまな感情が入り交じる島の風物詩を見詰めた。
 「蛍の光」のメロディーが響き始めると、惜別の声は一段と大きくなった。28日午前8時すぎ、福江港。始発フェリーが間もなく出港しようとしていた。
 「フレー! フレー!」
 「3年間ありがとうございました!」
 岸壁に詰め掛けた人は手作りのメッセージボードや大漁旗を掲げ、地上と船の間には無数の紙テープが舞う。やがて笛の合図で係留ロープが外され、声援は最高潮に。船は長い汽笛を鳴らし、岸壁を離れた。
 ターミナルで次の出港を待っていると、以前に取材で知り合った福嶋通明さん(18)と出会った。五島高を卒業し大学へ進学する。「人が温かくて、自然がすばらしくて。本当にいい島。いつか戻ってきたい」。福嶋さんはひとしきり“五島愛”を語ると、乗船口へ向かった。
 見送られる先生も多い。2年間務めた福江中から長崎市へ転出する大久保裕希教諭(28)は「純粋な子どもたちと温かい保護者に支えられた」。取材中も教え子が次々と声を掛けてくる。慌ただしく話を切り上げると、教諭はすぐに人だかりに包まれた。
 記者も船に乗り込んだ。船から見下ろすと、思いのほか岸壁で見送る一人一人の顔がよく見える。楽器を演奏する人、拡声器で叫ぶ人、動きだした船を追って走りだす人。それぞれが精いっぱいの気持ちを伝えていた。船上の教諭らは、岸壁が見えなくなるまで手を振り続けた。
 経由地の二次離島、奈留島の住民も教諭らを見送った。教え子たちが応援団風にエールを送り、周囲の人が手拍子で盛り上げた。
 海を眺めてたたずむ女子高校生2人がいた。奈留高の城山望愛海(のあか)さん(17)と三宅翔子さん(17)。「小さな学校なので話したことがない先生はいない。寂しいけど、先生に負けないように頑張りたい」
 2人は4月から3年生。奈留島では高校卒業と同時に、ほとんどの若者が島を離れる。「さっきも2人で『あと1年だね』って話してたんです」と城山さん。三宅さんは「来年島の人に悲しんでもらえるように良い思い出をつくらないと」と冗談めかして言った。
 港には、シンガー・ソングライターの松任谷由実さんが作詞作曲した奈留高の愛唱歌「瞳を閉じて」が流れていた。
 「♪遠いところへ行った友達に 潮騒の音がもう一度届くように♪」
 午後5時前の福江港。この数日間、何度も繰り返された光景が広がっていた。切れた紙テープの束をなびかせながら遠ざかる最終フェリーは、いつもよりゆっくりと進んでいるように見えた。

「フレー! フレー!」。奈留島の子どもたちも、旅立つ人に大声でエールを送っていた=五島市、奈留港ターミナル
島をたつ教員ら(手前)。船が動きだすと、教え子たちが岸壁の行き止まりまで駆けだした=五島市、福江港

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