「助かる命 救えぬ」 長崎県医師会 医療危機宣言

新型コロナウイルスの感染拡大への懸念を語る森崎会長=長崎市、県医師会館

 助かる命を救えなくなる-。長崎市香焼町の三菱重工業長崎造船所香焼工場に停泊しているクルーズ船内で新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生し、県内の医療関係者は危機感を強めている。重症者が急増すれば病床や医師がその治療に割かれ、一般診療や救急医療への影響は避けられない。県医師会は23日、「医療危機的状況宣言」を出した。
 県医師会によると、県内では3病院が重症者を受け入れ、その感染症病床は13床。最大43床まで増やせる見通しだが、その分の医療スタッフを確保できるかどうか。特に危険なウイルスに対応できる第一種感染症指定医療機関、長崎大学病院(長崎市)は一般入院や外来診療を10~25%減らして備えている。それでも中尾一彦院長は「感染症病床8床を主として重症者の受け入れを考えている。病床数を可能な限り広げることも想定しているが、そのすべてで重症者に対応するのは困難」と言う。
 クルーズ船内で重症者が出た場合、県は長崎市内2カ所の指定医療機関に搬送する方針。その病床が埋まった場合は国の支援を受けながら県内外も含め広域搬送も視野に入れている。佐世保市新型コロナウイルス感染症特別対策室の辻英樹室長は「受け入れの要請があれば、市内の指定医療機関に協力をお願いするが、もともと病床が限られており、医療環境はますます厳しい状況になる」と不安を隠せない。
 人工呼吸器や人工心肺装置「ECMO(エクモ)」の数にも限りがある。県医師会によると、県内の人工呼吸器は約150台、エクモは14台あるが、すべてを新型コロナウイルス感染症の患者に充てると、心臓手術など他の医療に影響が出かねないという。
 長崎市内で会見した県医師会の森崎正幸会長は「クルーズ船のクラスター発生で本県は(現在の感染確認地域を上回る)『感染拡大警戒地域』に入ったと判断せざるを得ない」と危機感をにじませた。


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