「古里に勝る場所ない」 新上五島町 限界集落を訪ねて

海を望む山あいの集落。40年間で人口は10分の1以下に減少した

 過疎化が進む離島地区。人口約1万8600人の長崎県新上五島町の高齢化率は約41.5%と高い。65歳以上の高齢者が半数以上を占める集落は町内に約40。その中には医療機関や商店が近くになく、公共交通機関も頻繁に通っていない所もある。そんな「限界集落」とも呼ばれる場所で暮らす男性の思いを聞いた。

■要介護1認定
 町中心部の有川地区から北へ車を走らせ約50分。山あいの車1台がようやく通れるほどの狭い道を抜けると、民家が数軒並ぶ集落が現れた。
 町などによると、この集落は1980年3月末には27世帯126人が暮らしていたが、今年3月末は6世帯11人。住民登録していても、実際に居住していない人もいるという。
 ここで生まれ育ち、人生の大半を過ごしてきたという高山耕一さん(82)=仮名=は現在、妻の和美さん(80)=同=と2人暮らし。集落を通る路線バスは便数が少なく、停留所も徒歩では自宅から遠い。2人とも要介護1の認定を受けていて、送迎付きデイサービスを週2回利用しているが、どうしても活動範囲は狭くなる。
 町中心部の病院までの距離が遠いことへの不安もある。それでも、耕一さんは今の住まいを離れたいと思ったことはないという。「言葉で表現しがたいが、不自由でも生まれ育った場所に勝るものはない」
 耕一さんは37年、10人きょうだいの末っ子として生まれた。中学卒業後、大工として修業を積み、4年後に独立。別集落の和美さんと結婚し、7人の子どもをもうけた。
 子どもたちは就職などで古里を離れ、97年から夫婦2人の生活に。47歳で大工から転職した水産会社の船員の仕事は70歳ごろに退職した。その間も、島外移住は一度も考えたことはなかったという。

■教会を支える
 それは耕一さんにとってはごく自然なことだったが、集落の「核」とも言える存在のカトリック教会を支えようとの意識も根底にはあったようだ。信徒の一人として集落での世話役を務め、大工として働いていた当時には教会の改築に関わったこともある。
 集落が“縮小”していく中で、教会の維持管理も難しくなってきているという。ただ、近年は、別集落にある教会の信徒が手伝ってくれて維持できている。離島の厳しい現実と共に、集落の間で助け合っていこうという動きに、ほっとするものを覚えた。
 耕一さんの自宅で取材中、近所の女性が「総菜をお裾分けに」と訪れていた。都会では希薄化した温かい人間関係が、80年余にわたり生きてきた場所に今も確かにある。「人生はここで終えたい」。耕一さんの言葉に深くうなずいていた。

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