光と影の出港

 クルーズ船はグローバル化の申し子といっていい。世界中の人が巨大な船に乗り、海を越えて自由に移動し、異文化に触れる。それもコロナ禍でぴたりと止まった▲クルーズ船は「海の貴婦人」に例えられる。そこで思い出すのが、三菱重工業長崎造船所が1990年に建造した5万トン級の豪華客船「クリスタル・ハーモニー」だ。たくさんの市民が乗った歓送船に見送られ「故郷」の長崎を優雅に出港したのが30年前の6月22日だった▲同船は技術、設備ともに世界最高峰と絶賛され、世界の海を駆け巡った。2006年に「飛鳥II」と改名し、今も現役で活躍している▲一方、長崎造船所で修繕中に新型コロナウイルスの集団感染が発生したクルーズ船「コスタ・アトランチカ」は5月末、静かに長崎を出港していった▲新型コロナはグローバル化によって、あっという間に世界中に広がった。長崎を出てゆく両船の対照的な姿はグローバル化の光と影を思わせた▲海を介して海外と交流し、発展してきた本県だ。クルーズ船が今まで通りの形で運航するのか見通せない部分はあるが、アトランチカの教訓を生かして安全に受け入れられる体制を整え、今後も温かく迎え入れたい。長崎の青い海には、しずしずと進む「海の貴婦人」の姿が、とてもよく映える。(潤)

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