ただ言葉を学ぶだけではない フィンランドの国語教育が大切にしている4つのこと

前回の記事で、フィンランドの小学校における「国語」の定義や「国語」を通しての公教育のタスクについて書きました。今回はさらに詳しく、小学校1-2年生が「国語」で学ぶ内容と、狙いや相互の関係について共有していきます。

これまでの【フィンランド教育はなぜ子どもを幸せにするのか】はこちら

ヘルシンキではマスクをしている人は少ない

先日、フィンランドに住む友人と会話をしていた際にふと聞いてみました。「(東京だと、95%くらいの人たちが街中でマスクをしているけど)ヘルシンキではどう?」

答えは「5%くらいかな」。フィンランド人はこれまでもあまりマスクをする習慣がなく、また都心部であっても東京の人口密度とは比較にならないほどの人の少なさ。日本とは単純に比較はできませんが “マスクはしないけれど、 ようです。

今年のフィンランドは全国的にブルーベリーが豊作。冷凍して1年中食べられるが、ブルーベリーパイをつくる人も多い。
今年のフィンランドは全国的にブルーベリーが豊作。冷凍して1年中食べられるが、ブルーベリーパイをつくる人も多い。
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4つのカテゴリーに分かれる「国語の学び」

国語の学びは、以下の4つのカテゴリーに分かれます。(C=Contents 1-4 )

C1:Acting in interactive situations(実際的なコミュニケーションを学ぶ)

実際的な状況で、言葉をどう使うのか?というテーマです。人が言葉を使う際には、状況によって脳の使い方が変わります。つまり脳のさまざまな部位が、違った形で活性化するのです。だからこそ、“状況別で言葉を学ぶことが有効”と考えられています。

小学校1、2年生では、

  • 言葉を使って周囲を分析する(“寒い”“人が密集している”など)
  • ものに名前をつける(“○○を買うお店”と名づけることで自分とお店との関連性を見出す)
  • 質問したり質問に答える(表面的な言葉に答えるのではなく、相手の真意を汲み取って答えるなど)
  • ストーリーを物語る

などを練習することで、子どもたちが実際に言葉を使ってコミュニケーションをとるスキルを養います。

C2:Interpreting texts (情報のよりよい“受け手”になることを学ぶ)

言葉の基本的な規則(日本語で言うと、“て・に・を・は” だったり“句読点”)を学ぶと同時に、より本質的に情報を理解するための戦略を学びます。この際の情報は文字情報のみではなく視覚的なものや聴覚的なものも含みます。

たとえばノンフィクション/フィクションそれぞれの物語を比較し、

  • “言葉のチョイスが違うのはなぜだろう?”
  • “時間の表現方法が違うのは?”
  • “物事の順序が違って書かれているのはどうして?”

という問いについて考えるのです。授業の中で「情報を深く読む」ことを体験することによって、日常生活の中にある“情報”の受け取り方にも影響があると考えられています。

C3:Producing texts (情報を生み出すことを学ぶ)

言葉を話したり、書いたりする際の正しい方法(スペリングや5W1Hなど)を学ぶとともに、言葉を生み出す際に大切なこと-それを人に伝えたい、アウトプットしたいという子どもの欲求-を中心においた学びが重視されています。

授業中や宿題で、

  • 自分の想像
  • 日常の出来事
  • 意見の表明
  • 経験の共有
  • 観察したこと
  • 話し言葉と書き言葉が違うこと
  • 自分の話が相手にどれだけ伝わったかフィードバックを受けること
  • お友だちの話や書いたものに対するポジティブ/ネガティブな感想をもつこと

によって「言葉の正しい使い方」や「伝わりやすい使い方」を学びます。

C4:Understanding language, literature, and culture (言葉と文化のつながりを学ぶ)

言うまでもなく、言葉はどんな形であっても人間の生活には必要なものです。そして人間の生活には必ず“文化”が存在しています。まずは自分たちの“クラスの文化”や“学校文化”、“日常生活(それぞれの家庭文化)”の中で言葉がどう使われているのか、言葉が人にどんな影響を与えるのかを問われることで、言葉と文化や生活とのつながりを意識するようになります。

これは教科書で学ぶというよりも先生たちの裁量で、童謡・子どものための詩や言葉遊びというツールを使ったり、学校行事や地元の文化的行事についてのディスカッションをしたり、YouTubeなどの動画を使ったり、他国からのゲストを招いたりしながら子どもたちの“言葉と文化のつながり”を体験する機会が設けられています。

「学びの狙い」と「スキル」の関係

次にC1-C4が、14あるObjectives(学びの狙い:O1-O14)、そして7つあるTransversal Competencies(教科を横断する子どもたちが身につけるべきスキルや能力:T1-T7)と、どう関連しているのかを表でお伝えします。

先生たちは、下記の学びの狙い、学びの内容を軸としながら、地域や学校単位で決めた、より詳細のカリキュラムを自分のクラスに合う形でアレンジし日々の授業や課題を準備し、振り返り……を繰り返していくのです。

  • T1.自分で考え学ぶことのできる能力
  • T2.自分がもつ文化を大切に思い、それを表現する能力
  • T3.自尊心をもち、自立した生活をする能力
  • T4.多様な状況やメディアにおける言語表現と親、使い分ける能力
  • T5.ICTを活用する能力
  • T6.自分の仕事をもって自立していく能力
  • T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル
  • 学びの狙い,学びの内容,教科横断のスキル・能力
  • O1.さまざまな状況で、より適切なコミュニケーションや振舞いができるように導く,C1 Acting in interactive situations(実際的なコミュニケーションを学ぶ),T1. 自分で考え学ぶことのできる能力 T2. 自分がもつ文化を大切に思い、それを表現する能力 T3. 自尊心をもち、自立した生活をする能力
  • O2.グループ活動などの機会を通して、言葉の使い方や想像力・そして人との関わり方を練習できるように導く,C1 Acting in interactive situations(実際的なコミュニケーションを学ぶ),T1. 自分で考え学ぶことのできる能力 T2. 自分がもつ文化を大切に思い、それを表現する能力 T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル
  • O3.自分のことを、自信をもって表現できるようにサポートし、さまざまな方法で(演劇など)自己表現ができるように導く,C1 Acting in interactive situations(実際的なコミュニケーションを学ぶ),T1. 自分で考え学ぶことのできる能力 T2. 自分がもつ文化を大切に思い、それを表現する能力 T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル
  • O4.自分のコミュニケーションのスキルに自信をもち、人によってさまざまなコミュニケーションの仕方があることが学べるように導く,C1 Acting in interactive situations(実際的なコミュニケーションを学ぶ),T1. 自分で考え学ぶことのできる能力 T2. 自分がもつ文化を大切に思い、それを表現する能力 T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル
  • O5. 文字やその他の情報を積極的に“読む”よう励まし、自分たち自身の読解力を客観視できるよう導く,C2 Interpreting texts (情報のよりよい“受け手”になることを学ぶ),T1. 自分で考え学ぶことのできる能力 T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親、使い分ける能力 T5. ICTを活用する能力
  • O6.さまざまな情報に含まれている言葉の意味・構造の多様性に触れ、語彙力や概念構築力を育てるよう導く,C2 Interpreting texts (情報のよりよい“受け手”になることを学ぶ),T1. 自分で考え学ぶことのできる能力 T2. 自分がもつ文化を大切に思い、それを表現する能力 T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親、使い分ける能力
  • O7.さまざまな情報の見つけ方を学べるよう導く,C2 Interpreting texts (情報のよりよい“受け手”になることを学ぶ),T1. 自分で考え学ぶことのできる能力 T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親、使い分ける能力 T5. ICTを活用する能力
  • O8. 読書体験を共有したり、子どもが“求めている”内容を読書によって満たすことで、読書に対してポジティブな気持ちと興味をもてるよう導く,C2 Interpreting texts (情報のよりよい“受け手”になることを学ぶ),T2. 自分がもつ文化を大切に思い、それを表現する能力 T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親、使い分ける能力/ T5. ICTを活用する能力
  • O9.自分たちで語ったり、意見を表明したり体験を共有したくなるようなきっかけをつくる,C3 Producing texts (情報を生み出すことを学ぶ),T1. 自分で考え学ぶことのできる能力 T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親、使い分ける能力 T5. ICTを活用する能力 T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル
  • O10. 子どもが文字やその他のメディアを使って(オーディオや動画など)簡単なストーリーや記述を生み出せるよう導く,C3 Producing texts (情報を生み出すことを学ぶ),T2. 自分がもつ文化を大切に思い、それを表現する能力 T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親、使い分ける能力 T5. ICTを活用する能力
  • O11. 子どもが“書くこと”と“タイピング”を練習し、少しずつ文章を構成し正しいスペルで書き言葉に慣れるよう導く,C3 Producing texts (情報を生み出すことを学ぶ),T1. 自分で考え学ぶことのできる能力 T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親、使い分ける能力 T5. ICTを活用する能力
  • O12.「言語」に対する意識を高め、基本的な知識をもち、日常生活などで周囲でどんな言語が書かれ、話されているか、どんな影響力をもっているかを観察するよう導く,C4 Understanding language, literature, and culture (言葉と文化のつながりを学ぶ),T2. 自分がもつ文化を大切に思い、それを表現する能力 T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親、使い分ける能力 T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル
  • O13. 子どもが図書館と親しみ、読書を楽しめるよう興味のもてる本やオーディオブックを見つけ、選べるようなきっかけをつくる,C4 Understanding language, literature, and culture (言葉と文化のつながりを学ぶ),T2. 自分がもつ文化を大切に思い、それを表現する能力 T3. 自尊心をもち、自立した生活をする能力 T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親、使い分ける能力
  • O14. 自分たちの言語や文化を理解し受け入れること、さらに言語や文化の多様性を楽しめるよう導く。そして自分たち自身の文化を創りだすよう励ます,C4 Understanding language, literature, and culture (言葉と文化のつながりを学ぶ),T2. 自分がもつ文化を大切に思い、それを表現する能力 T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親、使い分ける能力 T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル
自分たちで新聞づくり
学校にあるものは?
すごろくづくりからも、言葉の学びが得られる

O1-O14をじっくり読み、どんな内容(C1-C4)と関連しているのか、その学びにおいてどんな教科横断のスキルや能力(T1-T4)が意図されているのかを知ることで、私たちにとっては当たり前のことが本当に小さなことでも“学びになっている”と感じられるのではないでしょうか。

次回はフィンランドの小学校1、2年生においての「数学」について共有します。

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