緊急避妊薬はなぜ日本で簡単に買えない?

妊娠や出産、女性にも決定権を

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 世界の「当たり前」を、日本の女性たちは得られていない―。人生に大きな影響を及ぼす妊娠。喜ばしいものだけではなく、人によっては不安やリスクとなり得る。だが日本では、望まぬ妊娠から女性を守る「最後のとりで」とも言える緊急避妊薬の入手方法が、世界から大きな後れを取っている。9月26日は望まぬ妊娠を減らすために正しい知識の普及を目指す「世界避妊デー」。この日に合わせ、日本の現状に問題提起する人たちを取材した。(共同通信=三浦ともみ、山口恵)

緊急避妊薬(富士製薬工業提供)

 ▽性交後でも阻止率80%

 コロナ禍で入手を巡り課題が浮き彫りとなったのが「緊急避妊薬」だ。性交後72時間以内に内服すれば、妊娠阻止率は約80%とされる。

 手に入れるには、医師の診察を受けて、処方箋をもらうことが必要。昨年から条件付きで初診からのオンライン診療が認められるようになったものの、住んでいる地域によっては夜間などの緊急時に対応する医療機関や薬を受け取ることのできる薬局がないなど、入手にはハードルがある。

 ▽不安、薬で軽減できるのに…

 今春、外出自粛の影響で、妊娠に関する相談が各地の機関で急増した。

 「性行為の最中にコンドームを勝手に外された」「ストレスのはけ口にされて、断れなかった」「避妊をしたくないと言われて流されてしまった」

 安全な避妊方法の普及などを目指す団体「#なんでないのプロジェクト」が5月に実施したインターネット調査には、こういった声が寄せられている。

 女性1292人のうち、116人が「意図せぬ妊娠の不安に直面した」と回答。理由について「破損や脱落などコンドームの装着の失敗」「腟外射精」を挙げた人が多かったが、中には性暴力に遭ったという人もいた。

 一方、116人のうち、緊急避妊薬を「入手した」と明確に答えたのは20人。58人は不明で、38人は「断念」していた。

 断念した理由を複数回答で尋ねたところ、「高額」が約55%、「病院の受診でコロナ感染が不安」が約37%、「受診に抵抗があった」が約32%だった。

「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」のメンバー。左から遠見才希子さん、染矢明日香さん。タブレットの画面にうつるのが福田和子さん=6月、東京都内

 ▽処方箋なしでも購入できる仕組みを!

 この事態を問題視した人たちが6月、「緊急避妊薬の薬局での入手を実現する市民プロジェクト」を結成した。

 メンバーは、調査を担った「#なんでないのプロジェクト」代表の福田和子さんや、若者の性教育を実施するNPO法人「ピルコン」理事長の染矢明日香さん、医学生時代から中高生への性教育に取り組んできた産婦人科医の遠見才希子さんの3人だ。

 市民プロジェクトは7から9月にかけて、厚生労働省や日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会などに対し「処方箋がなくても薬局で薬剤師の関与のもと、緊急避妊薬を購入できる仕組みを作ってほしい」と25の市民活動団体から賛同を得た要望書を提出してきた。添えた署名も約8万8千人に上る。

 「世界には当たり前にある避妊の選択肢を日本の女性にも増やすことが必要」。遠見さんは活動の趣旨を説明する。

 ▽入手は「女性の権利」

 実は、世界では緊急避妊薬はもっと「身近な薬」だ。

 市民プロジェクトによると、カナダやフランスなど約90カ国では医師の処方箋がなくても薬局で購入できる。価格は日本では診察代なども含めて6千~2万円と高額であるのに比べ、数百~数千円程度と安価。無料で手に入る国もある。

 世界保健機関(WHO)は「全ての女性が安全に使用できる薬」であり、入手は「女性の権利」だとしてアクセスしやすい環境を整えるよう勧告している。

 日本では2017年、薬の市販化を検討する厚労省の会議で議論された。委員からは「性教育がヨーロッパやアメリカからかなり遅れている」「一般の人には知識や経験がない」「男性が入手して悪用する恐れがある」などの意見が出た。「日本でも何年かしたら問題ない環境になるのかも」との声も。

 結局、「時期尚早」として市販化は見送られている。

 ただ、内閣府の規制緩和を検討する会議は今年、「国民の利便性が考慮されていない」と日本の状況を問題視した。厚労省の担当者は取材に「市販化に向けて再び議論することはあり得る」と話しており、今後の国の動きが注目される。

 遠見さんはこう語る。「コロナをきっかけにプロジェクトを立ち上げた。だが、入手できずに困った女性はずっとずっと前から存在するし、人生が大きく変わってしまった人もいる。いつまでも『時期尚早』とは言っていられない」

厚労相宛ての要望書提出後、記者会見する市民プロジェクトのメンバーら=7月、厚労省

 ▽自分で決める

 緊急避妊薬を巡る日本の議論において、欠けているものは何か。

 遠見さんが指摘するのは、女性にとっての「セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ」(性と生殖における健康と権利)だ。

 人々が適切な支援や情報を得ながら、自分の体のことを自分で決める―。1994年の国連主催の国際人口開発会議で提唱されるようになった考え方で、妊娠出産や性にまつわることを当事者が自己決定する権利を言う。

 だが、医療政策を含めて意志決定層の大半を男性が占める日本では、妊娠出産の当事者である女性がないがしろにされていると言える。避妊も、日本では男性用コンドームが一般的であり、女性が主体性を持って実施できる方法は普及していない。

 遠見さんは「安全な避妊へのアクセスは基本的人権。女性の自己決定を尊重していく必要がある」と話している。