季節外れの桜

 試しに1、2、3…と数えてみて20を過ぎた辺りで断念した。きょうは、この欄に写真を付けられないのが少し残念。あちこちで話題の季節外れの桜、自宅の近くでも見つけた▲桜の花芽は、秋の落葉とともに「休眠」に入り、冬場の低温による休眠打破を合図に開花の準備を始めることが知られている。人間に例えれば、冬の寝床で「うわ、寒っ」と目を覚ますような感じだろうか。桜の満開に南限があるのはこのため▲この休眠物質の生成と落葉には密接な関係があるそうだ。時ならぬ“開花情報”が各地で相次いでいるのは、自然な落葉時期を迎える前に、先の台風が葉っぱを吹き飛ばしてしまい、休眠作用がうまく働いていないせい-らしい▲睡眠不足の桜たち。「本当なら寝ている時期なのに」と眠気をこらえ、あふあふと欠伸(あくび)しながら花を咲かせているのかもしれない、と勝手な想像をしている。何だか親近感▲新型コロナの流行が始まり、花見どころではなかった今年の春。ずいぶん昔に感じる。秋の桜は何かの計らいかも、と書きかけて、本県を立て続けに襲った9月の台風が「風のいたずら」などと呼ぶにはあまりに暴力的だったことを思い出す▲いろいろあった…と静かに振り返るのはまだ早そうだが、2020年はきょうから数えて残り86日。(智)

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