【レースフォーカス】ルーキー、アレックス・マルケスがもたらしたホンダの2020年初表彰台/MotoGP第10戦フランスGP

 MotoGP第10戦フランスGPは、スタート直前に降り出した雨によって突然のウエットコンディションとなった。レースではダニロ・ペトルッチ(ドゥカティ・チーム)という2020年シーズンにおける新しいウイナーが生まれ、ルーキーのアレックス・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が最高峰クラスで初表彰台を獲得した。

 フランスGPの決勝レースは、ドライコンディションからスタート直前にウエットに変わった路面により、ライダーたちはいったん着いたグリッドからピットに戻り、レインタイヤを装着。ウエットコンディションのレース序盤は、ドゥカティの3人のライダーが先行する形で始まった。

 アンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)やジャック・ミラー(プラマック・レーシング)、アレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)などに接近を許しながらも最終的に優勝を飾ったペトルッチは、ドライコンディションで行われた予選でも3番グリッドを獲得。前戦カタルーニャGPで、今季苦戦していたブレーキの改善点を見つけ、自信とともにフランスGPに挑んでいた。

 しかし、ペトルッチにとっても簡単なレースではなかった。ドヴィツィオーゾとの差を広げようとしたときには、転倒はまぬがれたものの4コーナーでフロントを失った。さらに「残り4周か5周で、トラクションが得られなくなってしまった。だから、少しインサイドを走るようにして、水が浮いているところでリヤタイヤを冷やそうとした」と、終盤に乾き始めた路面にも苦戦を強いられた。それでも最後には、2位のアレックス・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)に約1.2秒差で優勝を飾った。

 決勝後の会見でペトルッチは「今年はいつもとは違うシーズンだとわかっていた。レースをしていないのに、シートを失うのはいい気分じゃない。今季のレースに向けてモチベーションにならないよね。でも幸い、“ほかの人たち”が僕を信じてくれた」と、心情を明かした。2020年シーズンの初戦を前にして、ペトルッチはすでに来季のドゥカティのシートを失うことが決まっていた。そして、来季はKTMへと移籍することもだ。「これは、僕がMotoGPで勝つことができるという証明なんだ」

 一方、レース序盤にペトルッチとともにトップ集団を築いたドヴィツィオーゾ、ミラーは表彰台を逃した。ドヴィツィオーゾは、タイヤ選択が明暗を分けたようだ。ドヴィツィオーゾが選んだのは、フロント、リヤともにソフト。「最後には完全にタイヤが終わっていた」と、4位の結果に肩を落とした。ミラーはマシントラブルにより、19周目にピットインを選択してリタイアとなっている。

 さらに後方から追い上げたリンスは、ドゥカティ勢のトップ集団に割って入り、2番手にまで浮上しながらも、20周目にクラッシュ。「完全にフロントを失ったんだ。どうしたのか、まだわからないよ」。

 ドヴィツィオーゾによれば、残り周回数が10周になるころから路面は乾き始めていたという。レース直前に降り出した雨、変化する路面状況、タイヤ選択、マシントラブル……様々な要因がライダーを表彰台から遠ざけ、または近づけたレースだった。

■アレックス・マルケスの最高峰クラス初表彰台

 難しいコンディションでのレースとなったフランスGPで、MotoGPクラスのルーキー、マルケス弟は2位表彰台を獲得し、最高峰クラスで初めてポディウムに立った。

 マルケス弟は18番グリッドからスタートすると、タイヤが暖まるのを待ち、それから次第に上位との差を詰め始めた。

「ドゥカティの3人のライダーが前にいたから表彰台は無理だろうと思ったんだけど、カル(・クラッチロー)をオーバーテイクして、ドゥカティライダーとの差が詰まり始めた。それでいくしかないと、全力を尽くしたんだ」

 初表彰台を獲得した一方で、まだまだ改善しなければならない点も承知している。ドライコンディションでの表彰台が必要だということは、マルケス弟自身がよくわかっていた。

「ドライコンディションではもっと苦戦するかもしれない。でも、バイクにはポテンシャルがある。自分たちの強いところをうまく使う必要があるんだ。どうやって1周のアタックでタイムを出すか、ということも考えないとね。レースペースはいつも、そんなに悪くないから。もう少し、時間が必要だ」

 マルケス弟はレース後、怪我の療養のために戦線を離脱している兄でありチームメイトであるマルク・マルケスと電話で話したという。「すごく喜んでくれたよ。マルクは(この表彰台が)チームにとってもいい結果だったと思っている。だって、HRCにはこの結果が必要だと、彼はわかっていたからね」

「この結果」、つまりマルケス弟の表彰台は、ホンダにとって2020年シーズン初のポディウムだった。マルケス兄の負傷欠場の影響は大きく、ホンダはここまで一度も表彰台を獲得していなかったからだ。

 今季、マルケス弟が置かれてきた状況は厳しかっただろう。2019年シーズン最終戦バレンシアGPで、ホルヘ・ロレンソが突如、引退を表明。2020年シーズンもMoto2クラスに継続参戦する予定だったマルケス弟は、急きょレプソル・ホンダ・チームのライダーに抜てきされた。そして、最高峰クラスで1レースも走っていないうちに2021年シーズンはファクトリーチームではなく、LCRホンダから参戦することが決まった。もちろんこれはマルケス弟や上述のペトルッチだけではなく、世界的に広がった新型コロナウイルス感染症の影響により遅れたシーズンインによって、多くのライダーが2020年シーズンの初戦を前に来季のシートが決まっていく状況にあったという事情はある。

 さらに今季のチームメイト、王者マルク・マルケスは初戦で怪我を負い、シーズンを離脱。兄弟という関係性を横に置いても、レギュラーライダーのチームメイトが不在という状況はルーキーにとって簡単ではないはずだ。それでも結果を求められるのが、ホンダのファクトリーチームのライダーである。しかし、マルケス弟がフランスGPまでに記録したベストリザルトは、第8戦エミリア・ロマーニャGPの7位だった。

 マルケス弟はこうした状況について「今年はたくさん批判されてきたけれど、ときには悪くないよ。モチベーションになるからね。それに、批判に同意もする。特に、僕の予選でのパフォーマンスは期待されたようなものではなかった。(LCRホンダへの)移籍については、批判も気にしてはいないよ。僕はここにいる。それがすべてなんだ」と語った。

 兄が不在の状況は、見方を変えれば『マルク・マルケスの弟』ではなく『アレックス・マルケス』としての存在を示す機会でもある。ウエットでは表彰台を獲得した。今後、マルケス弟に求められるのは、ドライコンディションでの、そしてコンスタントな表彰台獲得だ。

2020年MotoGP第10戦フランスGP アレックス・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)
2020年MotoGP第10戦フランスGP アレックス・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)

© 株式会社三栄