ウエットコンディション下でのタイヤ選択が明暗/MotoGP第10戦フランスGPレビュー(2)

 MotoGP第10戦フランスGPのMotoGPクラスは決勝スタート直前に雨が降り始め、波乱のレースとなった。ダニロ・ペトルッチ(ドゥカティ・チーム)が序盤の接戦を抜け出して独走。最後は追い上げてきたアレックス・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)らに接近されたものの、逃げ切って優勝し、今シーズン7人目の勝者となった。10戦で7人のライダーが勝ち星を収める混戦。唯一、ファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハSRT)が3勝を記録してランキングトップをキープしているが、チャンピオン争いもまだまだ接戦が続いている。

 フランスGPは通常5月開催のスケジュールだが、これまでもル・マンでは天候が不安定なレースが多かった。今年は新型コロナウイルスの影響で開催日程が10月となり、今回のMotoGPクラスの決勝はMoto3クラスの後、2番目の決勝レースとして、いつもより1時間早い午後1時スタートとされた。公式データでコンディションを比較すると、昨年より気温が3度低く、路面温度は5度低かった。

 そして、グリッドに着き、ウォームアップラップが始まろうとするころに雨が降り始め、スタートディレイとなってしまう。各ライダーとチームはわずかな時間でタイヤ選択を決め、レインタイヤに履き替えたマシンで今シーズン初となるウエットレースに臨むことになった。今回のウィークでウエットだったセッションはFP1のみ。FP2はウエットで始まったが、セッション中盤以降、路面コンディションは回復し、スリックタイヤで走ることができたため、ウェットのデータに関しては各ライダーとも、十分ではなかった。

 優勝したペトルッチはフロントにミディアム、リヤにソフトのニュータイヤを選択。3番グリッドからスタートしたペトルッチは1周目をトップで終えると、接戦が続いたトップ争いをリード。結果的には一度もトップの座を譲ることなく、そのままチェッカーを受けた。

2020年MotoGP第10戦フランスGP ダニロ・ペトルッチ(ドゥカティ・チーム)

 2位に入賞したアレックス・マルケスもフロントにミディアム、リヤにソフトを選択。フロントは4周走ったユーズド、リヤはニュータイヤという組み合わせだった。アレックスは、18番グリッドからのスタートにも関わらず、1周目に10番手まで挽回しており、その後も次々に前走者をパスすると、残り7周で3番手、残り3周で2番手に浮上し、MotoGP初表彰台となる2位に入賞。タイヤ選択がうまく決まったことも好結果につながった。

 3位に入賞したポル・エスパルガロ(レッドブルKTMファクトリー・レーシング)はフロント、リヤ共にソフトのニュータイヤを選択。序盤からトップ集団の後方につけていたが、終盤にアレックスに交わされ、3位となった。レース後、「13、14周目あたりからフロントタイヤのパフォーマンスが低下し始めた。路面が乾き始めたラスト3周は、リスクを背負った。フロントにミディアムを選んだアレックスの戦略は最善だった」と語っている。

■ファビオ・クアルタラロは初めてのウエットレースに苦戦

 前後ソフトを選んだアンドレア・ドヴィツィオーゾ(ドゥカティ・チーム)は序盤からトップ集団に加わっていたものの、終盤に遅れ4位でゴール。前後ミディアムを選択したヨハン・ザルコ(エスポンソラーマ・レーシング)は序盤は14番手付近を走行していたが、その後、ポジションを挽回、路面が乾き始めたレース終盤にはファステストラップを次々に更新して追い上げ5位に入賞した。なお、レース中にはファステストラップが通算24回更新されており、特に終盤にはザルコが4周連続でファステストを更新するなど、路面コンディションが終盤に急速に改善して行ったことを示している。

 ポルと同じタイヤを選んだミゲール・オリベイラ(レッドブルKTMテック3)が6位に入賞し、中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)はフロントに5周走ったユーズドのミディアム、リヤにソフトのニュータイヤを選択。中上は「いいペースがあったが、特にレース終盤は路面が乾いてきて苦戦した。速さはあり、トップグループにかなり近づくことができたが、残り3周で、リヤタイヤがオーバーヒートして、メインストレートではかなりスピンした。そのためポジションをキープするのが大変だった」とレースを振り返る。

 チャンピオンシップリーダーで、このレースをポールポジションからスタートしたクアルタラロは、フロント、リヤ共にソフトのニュータイヤを装着。MotoGPクラスでは初のウェットレースに苦戦している様子だった。10位のマーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)は、クアルタラロと同じタイヤ選択。11位のジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)は前後ミディアムを選択。ビニャーレスとミルに関しては、スタート直後の3コーナーでのバレンティーノ・ロッシ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)の転倒を避けてコース外に飛び出し、ポジションを下げ、追い上げを強いられたこともレースを難しくした。

2020年MotoGP第10戦フランスGP ファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハSRT)

 また、ミルのチームメイト、アレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)も同じタイヤ選択で、序盤からトップ集団の背後につけ、終盤には表彰台圏内に進出したが、20周目に転倒、再スタートしたものの、チェッカーを受けずピットに戻ったため、完走扱いとはならなかった。

 この結果チャンピオン争いでは、クアルタラロがランキングトップをキープ。ランキング2位のミルとのポイント差は10ポイントとわずかに拡大。4位に入賞したドヴィツィオーゾがミルと8ポイント差のランキング3位に浮上。ビニャーレスはランキング4位に後退したが、ドヴィツィオーゾとの差は1ポイント。チャンピオンシップ争いでもだれも抜け出すことができなかった。

 フランスGPは、最終的に雨に翻弄され、タイヤ選択が結果を左右する一戦となったと言えるだろう。

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