武漢ウイスル、中国に賠償請求か可能か|九段靖之介 武漢ウイルスの猛威によって、世界恐慌以来最悪の経済状況。トランプ大統領曰く「中国はウイルス感染爆発を隠蔽した。ために世界規模で感染拡大した。断固、中国には責任を取らせる」。しかし、果たしてそれは可能なのか? またトランプ大統領なら中国に責任を取らせる「公約」の実行が期待できるが、バイデン氏だったら?

世界規模で中国にオトシマエをつけさせる動きが

武漢ウイルスの猛威がどうにも止まらない。世界の感染者は3900万人、死者は110万人を数える。経済の先行きも真っ暗だ。

IMFの見通しによれば、世界各国政府の債務残高は、世界全体のGDP比で15ポイント増えて98.7%。ほぼGDP分に相当する債務(赤字)が増えたことになる。過去最悪の数字だ。今年の世界の経済成長率は4.4%減で、世界恐慌以降で最悪。2億人が失業するとの試算もある。

最大の被害国はアメリカで感染者810万人、死者21万人。失業率も14.7%に上り、失業者は1000万人を軽く超える。武漢ウイルスに襲われる前のアメリカは史上空前の好景気に沸いていた。

だからこそトランプは目下の大統領選で「中国はウイルス感染爆発を隠蔽した。ために世界規模で感染拡大した。断固、中国には責任を取らせる」と吠える。

すでに3月末、米下院で中国を非難する決議案が与野党共同で提出された。さらに上院では共和党のJ・ホーリー議員(弁護士上がり)が・中国の隠蔽工作を調査し、・中国が世界に与えた損害を各国に賠償する仕組みを作るべきだとする法案を提出した。

オーストラリアのモリソン首相は「ウイルス発生源を独自に調査すべきで、それに中国は協力すべきだ」と発言。これに中国は「失礼な言い分だ」と反発し、オーストラリア産の牛肉の輸入をストップした。

ドイツで最大の発行部数を誇る日刊紙「ビルト」が、編集長の署名入りで「中国は世界を欺いた」としてドイツに1650億ドルを賠償しろとする主張を掲げた。

目下、米欧各国は感染爆発の第二波に見舞われ、その対応に追われている。これが一段落したとき、中国にオトシマエをつけさせる動きが世界規模で始まるのではないか。

ならば日本はどうする? 本誌九月号で前首相・安倍が編集長インタビューに応じた。なかでこんなやり取りが交わされた。

──トランプ大統領から、中国から賠償金を取ろうという話は出なかったですか。日本も賠償金請求に加わる考えはありますか。

安倍 トランプ大統領からそのような話は出ていません。そもそも米国は連邦政府として損害賠償を求める訴訟を起こしてはいません。一部の州にそのような動きがあるのだろうと思いますが、主権免除という国際原則がありますので、中国側が支払いに応じることはなく、日本がそうした賠償金の支払いを中国に求めていく考えもありません……。

バイデンには何の期待もできない

「主権免除という国際原則があるから、中国側が支払いに応じることはない」

主権免除とは、国の主権にかかわる行為は他国の裁判権に服さないという意味だ。中国を相手に賠償請求を提訴しても、中国は裁判に応じないで済むという議論だ。

とはいえ、小欄のおぼろな国際法の知識では、たとえ主権にかかわる行為であっても、不法行為は例外とされる、それが国際司法の共通認識としてあるはずだ。

武漢ウイルスの発生源を調査の結果、仮に生物兵器製造の過程で漏洩したとすれば、生物兵器禁止条約違反で立派な不法行為となる。

中国はWHO(世界保健機関)に加盟している以上、WHOが定める規約(契約)に従い、感染症発生を直ちに通告する義務がある。それを怠り、隠蔽工作に出たのも国際法違反(不法行為)に当たる。

要は調査の結果次第で、不法行為の証拠を掴んだ場合、中国の責任を十分に問えるはずだ。だからこそ弁護士上がりのホーリー議員もモリソン首相も、まずは独自の調査(中国に左右されない調査)で証拠を掴む必要を主張している。

中国は武漢ウイルス発生説や隠蔽工作説について「根拠のない言いがかりで、わが中国に罪を着せようとする動きには断固、反対する」、あげくは「アメリカが持ち込んだかもしれない」などと躍起になって否定する。

そのこと自体、中国がいかに今後の展開を危惧しているかを示す。モリソン首相に対する過剰なまでの反応ひとつを見ても、それがいえる。

トランプはオバマ・ケア廃止以外の主な公約をほとんど実行した。公約に正直だ。そのトランプが大統領選で勝てば、中国に責任を取らせるとした公約の実行が期待できる。バイデンには何の期待もできない。

各国の経済成長率が揃ってマイナスを示すなか、中国だけが1.4%増の見通しだ。世界中に悲惨な被害を撒き散らしながら開き直る中国に何のペナルティも科さずに済ませるわけにはいかない。

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