子ども3人、手取り年700万で4500万円の物件を買っても大丈夫?

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、38歳、会社員の男性。第三子を授かった相談者。住宅購入を考えていますが、自分の収入に適正な住宅の価格が知りたいとのこと。FPの宮里惠子氏がお答えします。

2児の父ですが、相談させてください。

先日、妻に第三子の妊娠が分かりました。子どもは欲しかったので嬉しいのですが、住宅購入、教育費、老後資金が私の収入や現預金で十分に対応できるか今後の不安は残っています。

子どもたちには苦労はさせたくなく、

・適切なマンション購入価格

・支出削減すべき額と品目

についてアドバイス頂きたくよろしくお願いいたします。

◼️住宅購入の補足

現在、会社から月7万の補助が出ており、東京で2LDKで14万7,000円(管理費込)の賃貸に住んでいます。あと2年ほどて補助もなくなる予定のため、それまでに資金を貯めてマンション購入を考えています。2年後は40歳のため、ローンは20年返済で考えています。子どもが小1と4歳で、子ども関連のコミュニティが出来ているため、出来れば、マンション購入は近所で考えています。ただ、付近のマンションは、築25年の中古3LDKでも4,500万円と高額で、新築は6,500万円はします。4,000万円ほどで新築が購入できる千葉、埼玉への引っ越しも視野にいれていますが、引っ越しを子どもに話してみると子どもが泣いてしまい、可能なら付近でと毎日中古マンションを探しています。恥ずかしながら、コミュニティができる前に計画的にマンション購入しなかったことを悔やんでいます。

◼️教育費

中学校までは公立で考えていますが、高校は受験などの結果で私立の可能性は高く、大学進学も子どもたちが希望したら、進学させてあげたいです。私立高校の授業料免除も年収制限を少しだけ超えてしまい、収入や今の学資積立で教育費をまかなえるのか心配で、貯蓄増のため支出を削る必要性を感じています。

◼️老後資金

私は、企業年金で総額900万円、退職金で500万円、確定拠出年金で300万円(運用で上下)があります。妻は契約社員で退職金がありません。住宅購入や教育費もある中、老後資金を十分に確保できるか心配があり、貯蓄増のため支出を削る必要性を感じています。

【相談者プロフィール】

・男性、38歳、会社員、既婚

・同居家族について:

妻(37歳)、保険会社の事務契約社員、時短勤務中、手取り14万円ほど

娘7歳、息子4歳、第三子(妻妊娠中)

・住居の形態:賃貸

・毎月の世帯の手取り金額:52万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:250万円

・毎月の世帯の支出の目安:42万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:14万7,000円

・食費:9万円

・水道光熱費:2万2,000円

・教育費:3万3,000円(学資積立二人分の1.8含む)

・保険料:1万5,000円(老後積立目的の生命保険0.7含む)

・通信費:1万5,000円

・お小遣い:5万円(夫婦合計、ランチ含む)

・その他:5万円(日用品1.5、家族の交際費や子育て用品やその他3.5)

・毎月の貯蓄額:10万円(持株5※単元ですぐ売却、財形住宅貯蓄2含む)

・ボーナスからの年間貯蓄額:100万円

・現在の貯蓄総額:1,900万円

・現在の投資総額:100万円

・現在の負債総額:0


宮里:家計を拝見いたしました。3人目のお子さんがお生まれになるとのこと、おめでとうございます。住宅資金、教育資金、老後資金とまさに人生の三大資金の準備に待ったなしの状況ですね。現在の家計支出の中で削減できるところを削減したいとのご希望です。

子ども3人ではどれくらい教育費がかかるのか

ご相談者は適切な住宅購入価格をお知りになりたいとのことですが、その前にまず、お子さん3人の教育費を試算します。

前提1)中学までは公立で高校は私立の学校に進学する
前提2)「幼児教育・保育の無償化」は実施済
前提3)大学は私立に進学し、自宅通学とする

「平成30年度子供の学習費調査」(文部科学省)によると、公立小学校の学習費総額の平均は年間約32万円、公立中学校が年間約49万円、私立高校では年間約97万円という結果になっています。一方同調査の人口規模別の統計で「指定都市・特別区」は、他の地域よりも学習費総額の平均が高い結果となっています。ご相談者は東京都にお住まいなので「特別区」の数値、すなわち公立小学校は38万円、公立中学校が53万円として試算します。

大学でかかる費用に関しては、「平成30年度学生生活調査報告」(独立行政法人日本学生支援機構)では、私立大学で自宅通学生の学生生活費は年間約181万円です。令和元年度「教育費負担の実態調査結果」(日本政策金融公庫)によると、入学年度は受験料や入学金等の納付金(入学しなかった大学を含む)が、私立大学文系学部では別途約87万円かかります。

グラフで見る教育費の推移〜教育費が一番かかるのはいつ?

これらの統計データをグラフにすると以下の通りです。

一般的には子供の学年差が小さいほど短期間に一気に教育費が高額になり、学年差が大きいと長くなだらかに教育費がかかります。

ご相談者のケースでは、1人目のお子さんと2人目のお子さんの学年差が3学年、2人目のお子さんと3人目のお子さんの学年差が4学年です。1人目のお子さんの大学入学と2人目のお子さんの高校入学が重なり、その年から1人目のお子さんが大学を卒業するまでの4年間が最も教育費がかかることがわかります。

大学院に進学したり、理系学部を志望したり、浪人したりする可能性もあり、これ以上に教育費がかかることも想定しておく必要があります。1人目のお子さんにはそろそろ習い事や塾費用がかかってくる時期ですね。初めてのお子さんには色々な習い事をさせてみたくなりますが、常に「2人目、3人目の子どもにも同じことをできるか」と考えるようにしましょう。

今後の教育費の考え方は、少なくとも3人のお子さんそれぞれの高校卒業までは、月々の収入からねん出したいものです。現在、お子さんのために月々9,000円ずつの学資積立をされていますので、ぜひ3人目のお子さんも含めて、継続してください。児童手当を充てることで可能と思います。18年間積み立てれば194万円。そのまま大学の初年度納付金に充当しましょう。大学在学中にかかる費用の半分は月々の収入からねん出し、半分はそれまでに貯蓄すると考えましょう。

生活費を見直せる箇所はあるか

現在、52万円の手取り金額から42万円の生活費を差し引いて毎月10万円を貯蓄されています。現時点で1,900万円の貯蓄があるのも立派です。全体として良好な家計といえそうです。

ただ、これからは「私の収入や現預金で対応できるかどうか」とのことですので、今後奥様が退職し、収入を見込まないという前提で考えてみます。

毎月の世帯手取り52万円のうち奥様の収入の14万円を差し引くと38万円。今後は毎月の貯蓄はできず、さらに4万円の赤字となってしまいます。そこで、毎月の支出項目を点検すると、大きなムダは見当たりませんが、2つの項目(食費、通信費)が気になりました。

4人家族とはいえ、お子さんの年齢の割に食費(9万円)の割合が高いと感じました。購入した食品を無駄にしていないでしょうか。買い物の前に冷蔵庫を確認する習慣をつけましょう。外食の回数はどうでしょうか。中食(惣菜の購入やデリバリー)に頼りすぎていないでしょうか。お子さん3人の成長に伴い、今後食べる量はどんどん増えます。今のうちに食生活を見直しましょう。

通信費の内訳は、主に自宅のインターネット環境とご夫婦のスマートフォン利用料と思われます。特にスマートフォンについては、利用プランを見直したり、格安スマホに乗り換えたりするなどを検討しましょう。いずれお子さんがそれぞれスマートフォンを持つようになると、通信費も高額になりがちです。しっかり情報収集してムダをなくしましょう。

ただ、食費も通信費も今はいったん減額できたとしても、将来は増加する項目と考えられます。

いただいた資料の中で、最も気になる項目は、ボーナスの使途です。年間ボーナス250万円から100万円を貯蓄されていますが、残りの150万円の使い道が不明ですね。冠婚葬祭費用、家族旅行等の予備費が必要としても、しっかり管理して使途不明金をなくすようにしましょう。

夫のみの収入で住宅を購入できるか

上記2項目(食費、通信費)の見直しとボーナスからの補填で、毎月4万円の赤字を埋め、ボーナスの使途不明金150万円のうち半分の75万円を予備費とし、残りを貯蓄に回すと仮定して2年後の住宅購入に向けて試算をしてみましょう。

現在の家賃(14万7,000円)程度をそのまま住宅ローンの月返済額とし、返済期間20年、ボーナス返済なし、住宅ローン金利を1.21%(【フラット20】融資率9割以下、2020年10月現在)としてシミュレーションすると、借入限度額は約3,100万円です。
※知るぽると「しっかりシミュレーション」(金融広報中央委員会)による

前提1)ご相談者の手取り金額は55歳まで前年の1%上昇するとする。その後、定年(65歳)まで昇給しないとする
前提2)世帯の手取りボーナス額は現状維持で60歳まで受け取るとする
前提3)奥様は将来復職しない
前提4)生活費は現状維持とする
前提5)住宅購入の頭金は預貯金から1,500万円を充当する
前提6)住宅購入後の維持費(管理費、固定資産税等)を年間50万円とする

これらを前提に先ほど試算した教育費を加味したグラフが以下の通りです。

住宅購入価格を4,500万円(頭金1,500万円+住宅ローン3,000万円)としても、2人目のお子さんが大学生になる前に貯蓄が底をつき、マイナスの家計になってしまいます。試算では、ご相談者のみの収入で住宅の購入も教育費の準備も大変厳しいということになります。

新型コロナ禍でもあり、社会情勢や勤務先の業績等により給与額やボーナス額は、今回の試算よりも悪化する可能性がある“見通せない”部分です。一方で、お子さんの教育費は、その時期が来れば必要になる“見通せる”部分です。

もちろん、子どもの大学にかかる費用をすべて親が負担しなければならない訳ではありません。お子さんと相談して、お子さん自身が奨学金を利用するという考え方もあります。

住宅購入を可能にする選択肢はあるか

住宅の購入価格を下げるためには、お子さんに少し寂しい思いをさせますが、千葉や埼玉への引っ越しを検討する余地がありそうです。ただし、郊外に引っ越す場合、お子さんが3人いれば自家用車が必要になるかもしれません。その場合、車の購入・買替の費用や維持費を別途計上する必要があります。

東京都内で住宅購入を検討するのであれば、奥様が第3子を出産された後、住宅購入時期には復職または再就職する見込みがあるかどうか、お子さんが大きくなったらフルタイムで働けるのか、ご夫婦の実家等から金銭的支援が受けられるのかどうかなどが大きなポイントといえそうです。

参考までに、上記の前提の中で、前提3)だけを3人目のお子さんが3歳になったころに奥様が復職し、現在の収入(14万円)を確保した場合、以下のグラフになります。

あくまで試算ではありますが、奥様が復職し、家計収入を増やすことが住宅資金、教育資金、老後資金の確保の早道だとわかります。住宅は一生で最大の買い物であり、ムリな住宅ローンを組んだ末の住宅ローン破産というようなことのないよう、ご夫婦で充分に話し合ってください。

【文中参考資料】文中参考資料
平成30年度「子供の学習費調査」(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/content/20191212-mxt_chousa01-000003123_03.pdf
「平成30年度学生生活調査報告」(独立行政法人日本学生支援機構)
https://www.jasso.go.jp/about/statistics/gakusei_chosa/2018.html
令和元年度「教育費負担の実態調査結果」(日本政策金融公庫)
https://www.jfc.go.jp/n/findings/kyoiku_kekka_m_index.html
知るぽると「しっかりシミュレーション」(金融広報中央委員会)【借入限度額シミュレーション】
https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/sikin/menu/s_gendo.html

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