分断の末は

 相手に好意や厚意があれば、こちらも返す気になる。「魚心あれば水心」という。人の心を読んだり、意を酌んだり、日本人は気遣いに忙しい▲…というのは早合点で、似た言葉なら海外にもある。英語のことわざ辞典に〈背中をかいてくれたら、君のもかいてやろう〉というのを見つけた。お互いに自分では届かない、かゆい所に手を伸ばす。どこかほほ笑ましいが、親切や互助の心の表れだろう▲背中にそっと手を伸ばすどころか、米国民は真っ二つに割れ、どうやら背を向け合っている。米大統領選の大接戦は、共和党、民主党の両派が対立し、敵視を深めた末の混迷に見える▲民主主義とは多数決であり、選挙とは戦いだが、このトップ選びは国民の分断までも招いたらしい。支持が異なる人とは口もきかない-とは極端な例でもないという▲誰かを、何かをののしり、「敵か味方か」と色分けするのがトランプ大統領の流儀だろう。国民による「トランプ氏か否か」の二択ともいえる審判の結果はどうか。集計が長引く激戦区もあるとみられる▲結果次第では暴動も危ぶまれるという。背中をかき合うのではない。爪を立てた引っかき合いでも終わらない。そんな緊迫した場面が続くこの国はかねて「民主主義のリーダー」と呼ばれてきた。つい忘れそうになる。(徹)

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