往生際

 「たった今、クリントン候補から電話がかかってきました。彼女は私たちの勝利を祝福してくれました」-4年前の11月、ドナルド・トランプ氏の勝利演説もそんな言葉で始まった▲米国の大統領選には、敗北を認めた対立候補が当選者にお祝いの電話をかけ、勝者は勝利宣言の中で相手の健闘を称える-という美しい“伝統”がある。このシーンは前回で見納めなのだろうか▲米大統領選は開票作業が大詰めに差し掛かり、バイデン候補の優位が固まりつつある、とされる。だが、トランプ大統領側は郵便投票での不正の可能性や集計を巡る疑義を言い募り、戦いの幕が下りる気配はない。電話で祝意を伝える姿など今のところ想像不能▲選挙は水ものだ。思いもよらぬ結果が出ることもある。しかし、投票箱から出てきた結果を静かに受け入れることは最も基本的な作法だ。選挙に出る人も、選ぶ人も、多分どこの国でも▲4年前のトランプ氏は語った。〈全てのアメリカ人の大統領になる〉〈皆さんをがっかりさせない〉〈願わくば皆さんが大統領に誇りをもてるように〉。約束はいくつ果たされたか▲事態がこのままなら、彼の名は「最も往生際の悪い敗者」としても米国の政治史に刻まれるはずだ。「往生際」という単語が英語にあるかどうかは別として。(智)

 


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