日本にあって、アメリカにないものとは

 アメリカの名門エモリー大学で28年間、教鞭をとってきた著者が語る、アメリカの日常と非日常。アメリカに長年住んでから日本に帰国すると、日本に住んでいたときにはまったく気づかなかった文化の違いに驚かされる。今回はそのいくつかを紹介しよう。

「日本に帰ってきたな」と思うのは、こんな時

 私事で恐縮だが、3週間少々の一時帰国中である。在職中は、帰国できるのは夏休み限定だったため、30年ぶりに日本の秋を満喫している。そんな久々の日本滞在で、何度か「日本では一般的だが、アメリカではありえないこと」に遭遇した。今回はそのことについて書いてみたい。

 まず、最初の驚きは成田空港で入国審査を受け、スーツケースをピックアップするときだ。ベルト・コンベアの上にのって出て来るスーツケースの整然としていること! すべて向きが同じ方向に揃えられ、持ち主が引き取りやすいように置かれている。これはアメリカではありえない。そして、空港から宅急便でスーツケースを送れるシステム、東京駅での新幹線折り返し時の車両清掃、分刻みの正確なダイヤ、乗り込む際に乱れぬ乗客の列などを見て、「ああ、日本に帰ってきたな」と思うのである。

地元の酒イベントで驚愕したこととは?

2019年10月19日と20日、実家がある町で開催された「越後・謙信SAKEまつり」にも足を運んだ。本町商店街800メートルを歩行者天国にして、地元の25の酒蔵ブース、飲食店ブース(ピザ・惣菜・ラーメン・スイーツ・かまぼこ・豆腐・名産品など)が並ぶ。ほとんどが地元で馴染みのお店である。大勢の前で、天ぷら屋の大将が名物「するてん」を揚げ、和食料理人がだし巻きを作る。入場は無料、お酒を飲まない人も子供連れの家族も楽しめるイベントだ。私がこのイベントを通して「ああ、ここは日本だ」と実感したことを書き出してみよう。

1)この酒祭りでは、年齢証明の後、2,000円を払ってお酒のカップ(猪口)を買えば、25もの酒蔵のお酒とワインが、開催時間中(朝10時から。2日間)時間制限なしで何度でも試飲できる。アメリカでは食べ放題はあるが、アルコール類が試飲とはいえ制限なしに飲めることはありえない。そんなことをしたら、ありったけのお酒が飲まれて店がつぶれてしまうだろう。

2)アメリカの飲酒ルールは、実は非常に厳しい。特定娯楽地域(ラスベガス、ワインの街ソノマ等)を除き、公共の公園や場所での飲酒は、軽犯罪法に触れることを覚えていてほしい。サンタモニカ・ビーチの夕日を見ながら、浜辺や公園など公な場所でビールを飲むことはできないのだ。日本のお花見や酒祭りなど外で飲酒する様子を見て、アメリカ人が驚くのは、そのためだ。

3)この酒祭りの前年度の入場者は約12万人。今回は雨模様と北陸新幹線不通の条件下でも2日間で8万人が来場した。かなりの人数が800メートルのお祭りムード100%の歩行者天国を行き交う。この全員が常に通りにいたわけではないが、いい具合に出来上がった人がいても、全く喧嘩も諍いもない。お酒で赤い顔をした大人と祭りを楽しむ子供たちがミスマッチにならないイベントは、日本ならでは。公共の場でのお酒は「たしなむ程度」の言葉通りに、皆が節制しながら呑んでいる証拠だろう。

4)ゴミがひとつも落ちていないこと。この町の土地柄が関係しているだろうが、何かを食べる時には座って食べるのが当たり前で、歩きながらの立ち食いはしない。そんな文化の中、ゴミはゴミ箱へ、または家へ持ち帰るのも当たり前のようだ。道路の端に一列に座って焼きそばを食べる子供たちが微笑ましかった。アメリカの大学に在職中、私が好きになれなかったことのひとつが、大学生が授業に飲み物や軽食を持ち込むことだ。また、大学キャンパスのカフェテリアのゴミ箱が、ランチの後は無茶苦茶になっている様子も思い出された。

 飲酒についての厳しさは、アメリカに行く人や留学生、そのご家族にこの機会を使って強調したい。50州すべてが州によって飲酒年齢が異なるため(ジョージア州では21歳が飲酒許可年齢)、特に大学生は飲酒の前にそれを確認してほしい。学生ビザで留学している学生は、例えば寮の自室でビールを飲んで、それが大学警察(University Police)に通報された場合、学生ビザを取り消されて帰国へつながることもあるので、どうぞご注意を。

2019年11月公開記事

© 株式会社メディアシーク