ギタリスト野口五郎「女になって出直せよ」LAフュージョンをお茶の間に披露! 1979年 7月10日 野口五郎のシングル「女になって出直せよ」がリリースされた日

野口五郎が尊敬するギタリスト、ラリー・カールトン

原由子さんのヴォーカルでお馴染み「私はピアノ」にも登場するギタリスト、ラリー・カールトンという名前をわたしが知ったのは1979年。中1から中2の頃に読んだ『月刊明星』で、野口五郎さんが尊敬するギタリストとして名前を挙げていたのがきっかけだった。それからしばらくしてNHK-FMの番組でエアチェックしたラリー・カールトンの「Room 335」を、何度も何度も聴き返していたものだ。

当時、テレビの歌番組でエレキギターを持った貴公子的な男性歌手は珍しかった。だからこそバラエティ番組でコントを見せる野口五郎さんが、歌番組で華麗に歌いながらギターも弾いている姿がメチャメチャカッコ良く見えたのだ。

そのなかでも、たとえば「真夏の夜の夢」は今ではコロッケさんによるモノマネで有名だが、“ギタリスト野口五郎” としての側面も見せる演奏といえば、この次のシングル「女になって出直せよ」も見逃せない。この曲は1979年5月、ロサンゼルスで錚々たるメンバーの演奏で録音された。

カウントを入れるドラマーは、ジェームス・ギャドソン

野口五郎さんはデビュー2年目のロンドン録音を皮切りに、10代のころからロサンゼルスやニューヨークで海外録音を毎年のように行っており、参加ミュージシャンについても本人からオファーを出していたようだ。2020年7月に放映された『ミュージック・モア』(TOKYO MX)では五郎さん本人が次のように語っていた。

「専門の輸入盤業者の担当が付いていて、羽田にレコード盤が着くと僕のところにレコード盤を持ってくる。ラリー・カールトンと最初に共演したのも彼がクルセイダーズに入る前で、彼からは、クルセイダーズに入らないかって言われてるけど、ゴロー、どう思う? と聞かれました」

『ミュージック・モア』MCのクリス松村さんも絶賛していたのが、「女になって出直せよ」のイントロに入る前のカウント。引き続き番組中の五郎さんのコメントから引用する。

「海外のレコーディングでは、曲に入る前にそのテンポでイントロダクションを演奏していて、いい間合いが出来たときにドラマーが “One, Two…” とカウントを取り、普通はカウントの後から音源化するが、この曲ではドラムスのジェームス・ギャドソンのカウントがあまりにもよくて…」

五郎さん自身が絶対使いたい、ということでイントロの前にカウントするジェームス・ギャドソンの声から入っている。

アレンジは船山基紀、「スタートレックのテーマ」を参考?

さて、「女になって出直せよ」には、1979年5月のロサンゼルスのスタジオの空気が満載。カウントから小気味良い16ビートのドラムとギターカッティングの上に、優雅なハープが踊るイントロ。

筒美京平さんが書いたメロディを歌う野口五郎さんの声も、ひとつの楽器のようにホーンセクションと呼応し、聴いていて良質なフュージョンの器楽曲を想い起こす。それは『アメリカ横断ウルトラクイズ』のテーマにも使われた、メイナード・ファーガソンの「スタートレックのテーマ(Theme from Star Trek)」(1977年)。

「女になって出直せよ」のほうが若干テンポが早いが、アメリカ西海岸のパシフィック・コースト・ハイウェイをぶっ飛ばすようなドライブ感のあるリズム隊に管弦楽器を効果的に使ったサウンド全体の印象は、ウルトラクイズでお茶の間に親しみがあるスター・トレックのテーマを参考にしたように思える。

「女になって出直せよ」の作曲は筒美京平さん、編曲は船山基紀さん。筒美京平さんはアレンジを別の方に任せるときに、アウトラインを想定して編曲家の方に渡す… と何かで読んだが、もしも船山基紀さんのご記憶にあるなら、これは作曲の筒美京平さんのアイデアだったのかどうかを尋ねてみたいトピックだ。

シングル「女になって出直せよ」に続いて野口五郎さんが1979年7月21日にリリースしたアルバム『ラスト・ジョーク GORO IN LOS ANGELES ’79』は1979年5月15日からロサンゼルスでレコーディングされたもの。

「ギター・ダビングの時は彼の家に行った」と船山基紀さんが著書『ヒット曲の料理人 編曲家 船山基紀の時代』で記しているので、ラリー・カールトンの自宅スタジオで録音したものかもしれない。当時の私たちはそれを何とも思わず聴いていた。ああ、なんて贅沢なこと。

「夜のヒットスタジオ」では、サックスソロをエレキで完コピ!

ところで、野口五郎さんは発売直前の1979年7月2日の『夜のヒットスタジオ』出演時、「女になって出直せよ」の1コーラス目直後の間奏のラリー・カールトンのギターを、バックバンドのGORO Special Jr. と夜ヒット専属の管楽器メンバーで、先述のロサンゼルス録音のオケをほぼ完コピしているのだ。

歌に入る前には “どうだ!” という表情をカメラに向かって五郎さんは見せていた。YouTubeでも観れるので、その嬉しそうな23歳のギター小僧の表情をぜひ確認してほしい。

さて、先にわざわざ “1コーラス目直後の間奏” と書いたのには理由がある。音源では2コーラス目後の間奏は、ギターではなくサックスがリズムセクション上で炸裂している。クレジットではサックスプレイヤーとしてトム・スコットとデビッド・サンボーンの名が見られるが、演奏を聴く限りこれはテナーのトム・スコットによるものではないかと思われる。

これも先述の夜ヒットでは、間奏のサックスソロ部分を野口五郎さん自身がエレキギターでカバーし、最後のほうにサックスが聴こえる構成になっていた。CDやサブスクの音源ではこの間奏から後、サビまでの間も野口五郎さんのヴォーカルと絡み合うようなトム・スコットのサックスが聴ける。この部分も人間が出す声とサックスの出す音の絡み合いが非常にエモーショナルで面白い。

アルバム『ラスト・ジョーク~GORO IN LOS ANGELES ’79~』のクレジットには、先述したラリー・カールトンのほかにも錚々たるミュージシャンの名が並ぶ。そのなかのひとりのギタリストに “ガロー・ナグッチ” という人物の名前がある。もちろん、野口五郎さん本人であることは言うまでもない。

ガロー・ナグッチは、いまでもライブでこの曲を歌っているという。

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カタリベ: 彩

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