闇雲に“オンライン化”しても、幸せな社会は訪れない理由

社会のあらゆる場でオンライン化が進められています。仕事シーンにおいては在宅勤務やワーケーションなど、ネット環境を整えて、職場に出勤しない働き方が推奨されるようになりました。

オンライン化を前提に、ペーパーレスで業務が回っていく仕組みに変えて行こうとする企業が増え、就職活動ではテレビ電話で面接することも珍しくなくなりつつあります。

あらゆるものがオンライン化していく時代。それは、合理的でストレスフリーな世界の到来を予感させます。仕事においては、できる限りの業務をオンライン化した方が、生産性が向上し企業の競争力も高まりそうです。

しかしながら、介護や調理、工場での作業、プロスポーツなど、その場にいて直接業務に携わらなければならない、オンライン化が困難な仕事も多々あります。

また、これからオンライン環境下で様々な業務経験が蓄積されていく中で、むしろ、敢えてリアルな場で行った方が良い業務があると再発見することもあるかもしれません。


生活周りでオンライン化したいものTOP5

生活周りでのオンライン化についてはどうでしょうか。私が所属するしゅふJOB総研で、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦層”に、生活周りでオンライン化が進んで欲しいものについて尋ねたところ、トップ5は以下の通りでした。(n=766)

行政機関の手続きがダントツで、比率が8割を超えています。ちょっとした手続きなのに手間がかかる、役所に出向いて何時間も待たされた、など苦い経験を持つ人がたくさんいるのかもしれません。

2位には買い物が挙がっています。こちらも、コロナ禍で外出が制限されたり、高齢で重いものが運びづらい人がいる、などオンライン化が望まれる理由がいくつも想像できます。3位の診察も同様です。

それに対し、4位の「コンサートや演劇などの鑑賞」については、リアルな場でしか味わえない臨場感や迫力も重要であるように思います。

ただ、コロナ禍で緊急事態宣言が出された際、コンサートを開催することすらできなかったことを考えると、オンラインでも鑑賞できることを望む人もいるのだと思います。

オンライン化しない方が良いもの

では逆に、オンライン化を進めない方が良いものは何でしょうか。調査の結果、トップ5は以下の通りとなりました。(n=766)

半数の人が挙げたのが、慶事です。祝福する気持ちを込めて、その場に直接足を運ぶことに意義があると感じる人がたくさんいるということだと思います。その点、2位の法事や弔事も同様だと思われます。

ただ、体調がすぐれなかったり、高齢で移動が困難な場合でも、オンラインなら参加できるというケースであれば事情は変わってくるかもしれません。

3位には「コンサートや演劇などの鑑賞」が入りました。「オンライン化が進んで欲しい」もの、としても4位に入っていた項目ですが、「オンライン化が進んで欲しい」比率と「オンライン化を進めない方が良い」比率とを比較すると、進めない方が良い比率の方が25.2ポイントも多くなっています。

つまり、「コンサートや演劇などの鑑賞」のオンライン化については、進めない方が良いと思っている人の方が断然多いということです。

本当にオンライン化すべき対象とは?

調査では、「その他」を除いて18の選択項目を用意しました。それらの選択項目ごとに、「オンライン化が進んで欲しい」比率から「オンライン化を進めない方が良い」比率を引いて、その差が大きい順に並べたのが以下のグラフです。(n=766)

1位は、「行政機関の各種手続き」でした。「オンライン化が進んで欲しい」と思う人は多く、「オンライン化を進めない方が良い」と思う人は少ないことから、「行政機関の各種手続き」は積極的にオンライン化を進めるべき項目であることがわかります。

しかしながら、全体を見渡すと「オンライン化が進んで欲しい」比率が「オンライン化を進めない方が良い」比率を上回っている項目は5つしかありません。あとの13項目については、「オンライン化を進めない方が良い」と思っている人の方が多いということです。

生活周りにおいては、リアルな場よりもオンライン化した方が良いと言い切れるものは実は少ないのかもしれません。むしろオンライン化は、コロナ禍のようなケースを想定し、緊急避難措置として検討することがポイントになりそうです。

ニューノーマル(新常態)への移行は避けることができない時代の流れです。しかしながら、闇雲に何でもオンライン化することが必ずしも望まれている訳ではありません。必要性やメリットなどを総合的に判断しながら、適切な目的と優先順位にもとづいてオンライン化を進めて行くことが大切なのだと思います。

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