一番好きなジョン・レノンの曲は? ポールの答えは「ビューティフル・ボーイ」 1980年 11月17日 ジョン・レノン&オノ・ヨーコのアルバム「ダブル・ファンタジー」が米国でリリースされた日(ビューティフル・ボーイ収録)

ポール・マッカートニーが一番好きなジョン・レノンの曲は?

一番好きなジョン・レノンの曲に、ポール・マッカートニーは「ビューティフル・ボーイ」を挙げた。1982年1月、BBCラジオの番組『無人島レコード』でのことだった。

意外に思ったのは僕だけではないだろう。この曲が収められた1980年のジョン生前最後のアルバム『ダブル・ファンタジー』からは「スターティング・オーヴァー」「ウーマン」「ウォッチング・ザ・ホイールズ」という超名曲が相次いでシングルカットされている。この名曲陣ではなく、シングルにならなかった「ビューティフル・ボーイ」だとは。

そしてニューヨークのセントラル・パークで行われたジョンの追悼集会でも流され、瞬く間にイギリスでチャート1位に駆け上がった「イマジン」でもないとは。しかしこの曲の背景を見てみると、ポールがこの曲を選んだ理由も推測出来るのだ。

愛息ショーンに捧げられた「ビューティフル・ボーイ」

「ビューティフル・ボーイ」は1975年10月9日、ジョン35歳の誕生日に生まれたヨーコ・オノとの愛息ショーンに捧げられた曲である。ジョンは先妻シンシアとの間にもジュリアンを授かっていたが、当時のジョンはビートルズ旋風の中全世界を飛び回っていて、更にジュリアンが5歳の時にシンシアと別れてしまう。ジュリアンとまともに向き合えなかったジョンにとっては、ショーンが実質的に初めての子だったのである。ジョンが育児のためもあって5年程音楽界から身を引いていたのはあまりにも有名なエピソードだ。

一方ビートルズ末期にリンダと結婚したポールは、ジョンとは対照的に初めから家庭を大事にしていたが、リンダの連れ子を始めとして3人、女の子が続いていた(因みに3人め、リンダとの次女がかのステラである)。そのポールに待望の男の子ジェイムズが生まれたのが1977年9月12日であった。この時ポールは35歳。なんとジョンがショーンを授かった時と同じ年齢だったのである。決して若くはない年齢で授かった男の子に抱く想いについて、ポールはジョンに大いに共感を覚えたのではないだろうか。

強く共感できた歌詞「君が大きくなるのが待ちきれないよ」

実は僕もジョンとポールに遅れること10年、45歳で男の子の父親になった。それまでも女の子2人には恵まれていたのだが、長男が生まれ、正直に言うとそれまで長年ピンと来ていなかった「ビューティフル・ボーイ」が納得感を持って強く胸に迫ってきたのである。それは劇的と言っても過言ではなかった。男の子はもろく美しいものであることを僕は実感としてようやく理解出来た。「君が大きくなるのが待ちきれないよ」という歌詞にも強く共感を覚えた。ジョン・レノンの大ファンとしても、僕は男の子を授かり幸いだった。

人間の想像力には大いなる可能性があるが同時に限界もある。実体験しなければ分からないことは、やはり沢山あるのだ。

「ビューティフル・ボーイ」は、ヨーコ・オノも2007年1月のBBC『無人島レコード』でジョンの曲からこの1曲を選んでいる。生前のジョンが認めた最高のパートナーの2人、ヨーコとポールの意見が一致した。

そしてこの曲を捧げられたショーン・レノンだが、数年前確かラジオのインタビューで、この曲は辛くて聴けないと語っていた。これまたショーンにしか語れない言葉であるし、胸が締め付けられる思いがしたのだった。

しかし今年2020年、ジョン生誕80周年を記念した新たなベストアルバム『ギミ・サム・トゥルース.』でショーンは「ビューティフル・ボーイ」をリミックスした。オリジナルより包容力の感じられる音にはやはり耳を傾けておきたい。

そしてこのベスト盤リリースに伴うショーンとの対談で、ポールは一番好きなジョンの曲に、やはり「ビューティフル・ボーイ」を挙げている。

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※2016年12月9日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 宮木宣嗣

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