いつかはクラウン

 NHKの連続ドラマ「おしん」が空前のブームを呼び、4月には東京ディズニーランドが開園。任天堂の「ファミリーコンピュータ」が発売されたのもこの年。本県は長崎大水害の翌年で、筆者は大学1年生。トヨタ自動車の名作コピー「いつかはクラウン」が生まれたのは、そんな1983年のこと▲65年前のデビュー以来、国産高級セダンの代名詞として“君臨”してきた名車クラウンだが、最近の自動車市場では苦境が続いていたらしい。現行のセダンタイプの生産・販売中止が検討されているという▲ニュースに触れて、石坂浩二さんのナレーションが車の魅力をもの静かに語る「いつかは-」のフレーズを真っ先に思い浮かべた方も多いはずだ▲よくよく考えれば、高級車のハンドルを握ること自体は、人生における何かの達成や成功を直接的に意味するわけではない。そこは広告戦略の勝利だ、と今は思う▲ただ「いつかは-」の短い字句に込められた「未来の可能性」や「努力の向こうにある明るさ」があまり疑われることなく皆に共有されていた時代でもあったのかもしれない▲いつかは○○-令和の今ならばどんな言葉が入るのだろう、と試しに考えてみて、なかなか答えを思いつけずにいる。価値観の多様化だけが理由ではなさそうな気もする。(智)

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