三つ巴の戦いに挑む、日産「新型ノート」の走りを徹底チェック

日産の新型ノートをテストコースでさっそく試乗しました。ライバルのトヨタのヤリス、ホンダのフィットといった強力なライバルに対する日産の答え、さらには今後の日産が進むべき道を、この小さなボディの中にぎゅっと詰め込んだ、重要な車だったことがよくわかりました。


フルモデルチェンジのノート

試乗は新型ノートが生産される日産の追浜工場に隣接する「グランドライブ」で行われた。現在では実験や評価を行うテストコースだけでなく、販社や日産社員の試乗、さらにはユーザー対象のイベントなどが開催される場所です。

こうしたテストコースには色々な路面状況が用意されているとはいえ、それでも条件がよく、一般道でのテストよりは少しばかり印象が良く伝わったりしますから、私達も実際に得た印象から、少々割り引いて考えるようにしています。そんな心構えで臨んでも新型ノート、本当に出来が良かったのです。

まずコースに入り、試乗会のベース基地となるイベントホール前に並んだ新型が見えてきます。なぜか大きく、けっこう立派に見えました。これには理由がありました。

現在、木村拓哉さんが出演している日産のテレビコマーシャルで使用されているクロスオーバーSUVの「アリア」というEV専用モデルがあります。日産が推し進めている「ニッサン・インテリジェント・モビリティ」の象徴で、今後の日産車に採り入れられていくデザインコンセプトが全長4595×全幅1850×全高1655mmといった大柄なボディの中にぎっしり詰まっています。

存在感のあるリアスタイルは実際よりも大きく見せています

そんなデザインコンセプトを8年ぶりにフルモデルチェンジした新型ノートにも当然のようにたっぷりと注がれています。

しかし、ノートのボディサイズは全長4045×全幅1695×全高1520mm。車幅と高さは旧型と変わりませんが、全長はさらに55mm短縮された完全なる5ナンバー枠のコンパクトカーなのです。大柄なアリアのボディの中で、比較的自由に表現できた未来的なデザインコンセプトが、制約の多いコンパクトカーのサイズ枠をしっかりと守りながら表現できていた。こうした理由のために、初めて目にした実車の印象が、存在感たっぷりで実際よりも大きくに見えたのだと思います。

上々のデザイン

こうして完成した外観のデザインの仕上がりは悪くありません。切れ長の4灯式ヘッドライト(オプション)が印象的なフロントマスクのシャープな表情は、多くのクルマに紛れたとしても自己主張がキッチリと出来るだけの存在感があります。さらにリアのコンビネーションランプの質感やデザイン性の高さが印象的です。ヤリスのコンビネーションランプもかなり質感が高いと思ったのですが、ノートも負けてはいませんでした。

新しい日産エンブレムと4灯式のヘッドランプ(オプション)、さらにグリルが一体となって上質にして印象深いフロントデザインとなっています

試乗後にお話ししたデザイナー氏の話によれば「本当はLEDを採用したかったのですが…」ということでした。当然のことながらコストをかけられないノートはバルブ式のランプとなっていますが、それでも印象的なデザインのお陰でアリアにも通じる上質な印象はしっかりと維持されています。残念ながら、そのデザインも車群の中で見ることがかないませんでしたが、早く街角に置いてみて、実際に走らせ、その存在感を確認したいと思いました。

次にインテリアですが、もっとも印象的なのは7インチのメーターパネルと9インチのナビ類の、2つの大型液晶画面を横に並べたインパネのディスプレイです。1枚のパネルに見えるホンダeほどの一体感とはいいませんが、それでも連続感のあるパネルのレイアウトとデザインは、新鮮さを十分に感じさせてくれます。ここでも上質な印象を受けると同時に、実際に座ってみると視認性もよく、ナビ画面などの操作性も悪くありません。

メーターパネルにはシンプルに必要情報が表示されます

さらに全体として印象深いのは操作スイッチが少ないことです。インパネ周りだけでなく、ブリッジ型といわれるセンターコンソールも実にスッキリとしていて、シンプル。前後にスライドさせるシフトレバーと走行モードのセレクター、そして電磁式のパーキングブレーキにといったシンプルさで、目を移すことなく操作できます。

キャビンは全体的にコンパクトクラスなりのプラスチック感はありますが、こうしたインパネの仕上がりやデザイン性の高さとシンプルな操作系を見ていると、安っぽい感じはほとんどありません。唯一、ドアを開けたとき、ドアの厚みがそれほどでもないことを目にしたときだけは「あぁ、コンパクトカーなんだなぁ」という感じはありましたが、それ以外はクラスをあまり意識することなく快適に過ごすことが出来そうです。

そんなキャビンに身を置き、ホールド感のいいシートに包まれていよいよ走行が始まります。

静かで快適な走り出し

プッシュ式の起動ボタンを押し、シフトレバーをDに入れます。ここからは少しややこしいので、写真を見てほしいと思います。まずドライブモードには「ECO」、「SPORT」、そして「NORMAL」の3つから選びます。それぞれのモートには、減速力(エネルギーの回生力)の強さによってDレンジと、より回生力の強いBレンジのどちらかを選べるようになっています。

つまり合計6通りあるドライブモードから、自分の好みの走行モードを選んで走ることが出来るのです。そして新型ノートでは起動時のデフォルトの設定はECOモードのDレンジである。

ドライブモードは3つ、さらに各モードで2つの減速力の強弱を選べるため、全部で6つの走行モードがあります。デフォルトの走行モードは「ECOのDレンジ」となります

従来のATの走行でいいというならNORMALですが、これではノートならではの、というか日産自慢の“新世代e-POWER”の走りは味わえません。そこで基本としてはECOモードのままでまずは走りだしました。ゆっくりと加速するとモーターだけで、静かに静かに加速します。そのフィーリングはモーターならではのシームレスな感じで、なんとも平和で静粛性も高く快適です。キックスよりも洗練された印象で、ぜんぜんもたつく感じもありません。

次にアクセルグッと踏み込みます。今度は発電用の1.2Lの直列3気筒ガソリンエンジンが回り出します。旧型はこのエンジン音が甲高く響きましたが、今回はかなりしとやかに仕上げられていて、あまり気になりません。

ボンネットを開けると発電用のエンジンなどがぎっしりと収まっています

さらにいえば、このエンジンが作動するタイミングも、路面からの走行音などに紛れ込ませるようにつねにセンシングしていて、ここぞという時に回すこともできます。もちろんバッテリーの充電量にもよるのですが、このタイミングの良さもエンジン音の存在を希薄にしている一因だと思います。

日産のe-POWERといえばシリーズ方式といわれるハイブリッド車で、エンジンは発電のみに活躍し、タイヤを直接駆動しません。トヨタやホンダのエンジンとモーターが状況に応じてタイヤを駆動するスプリット方式(ストロングハイブリッドとも呼ばれます)のハイブリッドとは違います。日産がシリーズ方式にこだわるのは世界初の量産ピュアEV、リーフで培ってきたモーターだけのシームレスな加速感や減速感に特別なこだわりを持ち、重視しているからです。

価格にも満足

確かにスプリットハイブリッドはモーターの時とエンジンの時の走行フィーリングが変化したことがキッチリと分かります。とくにモーターだけの走行からエンジン走行に切り替わったときの“少し重さを感じる”走行フィーリングは気になることがあります。

オーテックバージョンのフロントシートはさすがに高級感があります

その点、e-POWERは一定していますから、エンジン車とは違ったモーター独特の力強さは維持したまま走れるのです。その一方で、発電用のエンジンが発電で頑張るため、突然始動してけっこう気になったりします。その気になる時間を出来る限り短くしようというのが今回のノートの新世代e-POWERが目指すところです。もちろん、そのセッティングはとてもうまく調整できていると感じました。

さて、デフォルトの走行モードのままに、もうひとつのチェックポイントである「プロパイロット」をチェックです。スカイラインに与えられている手放しが可能な「プロパイロット2.0」とまでは行きませんが、アダプティブクルーズコントロールとしての完成度はかなり高いと思いました。車線間のセンターのキープ率も高く、ステアリングへの修正もキッチリとドライバーに伝えてくれます。

今回はチェック出来なかったのですが高速道路ではナビゲーションと連動することで、きついカーブなどでは速度を抑えながら走れる「カーブ減速支援」という機能もあります。その意味からいえば、プロパイロット1.8と呼べるぐらいの位置にあるシステムかもしれません。

さらに走りながら驚かされたのはノイズの静かさ、コーナーでキレの良さと安定感と、なんとも平和な乗り心地です。これも今回のノートはガソリン車をラインナップから外して、ハイブリッド専用のプラットフォームを開発出来たためです。特に効果的なのはボディ剛性が30%も向上したことでしょう。走りも上質になっているのです。

この他にもアクセルだけで加減速をある程度賄える「ワンペダル走行」も進化を見せていました。旧型に見られたギクシャク感、車酔いする人もいたといわれたは独特の走行感は影を潜め、自然なフィーリングに仕上げられていました。

さらにスポーツモードを試しましたが、やはり新型ノートのデフォルトはECOモードがいちばんふさわしいと思いました。もし、よりスポーティなコンパクトハッチを望むのであれば、間もなく登場するであろう「ニスモ」を待ちましょう。

価格帯は202万9,500円から218万6,800円(助手席回転シート仕様は228万5,800円)。残念ながら100万円台はありませんが、それでもこれだけの完成度ですから十分に満足出来る価格だと思います。

それにしても今回の新型ノートといい、トヨタのヤリスやホンダのフィットなど、このクラスには実に魅力的なモデルが揃ったもの。ひょっとしたらここから新たなコンパクトカーのイノベーションが始まりそうな気配です。

© 株式会社マネーフォワード