「密」の越年

 2000年、12年、16年。五輪・パラリンピックが開かれた年で、どれも年末恒例の「今年の漢字」に「金」が選ばれている。20年前だと、シドニー五輪で女子マラソンの高橋尚子さんらが金メダルをもたらし、列島は歓喜に沸いた▲イフ(もしも)を持ち出しても仕方ないが、今年は4度目の「金」だった…かもしれない。もしも56年ぶりに東京で歴史的大会が実現していれば、師走の今頃も心を名場面の“余熱”で温めていただろう▲「熱」「躍」「涙」と「イフの1字」ならば他にも浮かんでくるが、これらは来年にお預けなのかどうか。きのう発表された今年の漢字は「密」だった▲心に残る出来事というよりも、3密という「避けるべき行動」「日頃から意識した事柄」が1年の代名詞となったのは、過去に例を見ない。「密」は一般投票で最も多く、2位は「禍」、3位は「病」で、上位がほぼ予想できた例もあまりないだろう▲「密」とは「隙間がない」という意味で、外に漏れないから「秘密」などと言うらしい。人と人とに隙間がないほどの親しさも表す▲遠くの親しい人となかなか会えない昨今、心の「密」を求める人は数多い。かたや、さまざまな場面で「密」を避ける生活がなおも続く。今年の漢字の“効力”が越年する例は、おそらく過去にない。(徹)

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